2013年2月22日金曜日

世界にひとつのプレイブック

(Silver Linings Playbook)

 マシュー・クイックによる同名小説の映画化作品で、今年(2013年・第85回)のアカデミー賞では主要五部門(作品・監督・主演男優・主演女優・脚色)と、更に助演男優、助演女優、編集の計八部門にノミネートされた、ハートフルではありますが、ちょっと奇妙な恋愛映画です。
 ノミネート部門数が多いだけなら、スピルバーグ監督の『リンカーン』が計十二部門で最多でしたが、あちらには主演女優賞が足りなかったか(男ばかりの歴史映画のようですし……)。
 これで主要五部門を総ナメに出来れば、なお凄かったのですが、他の候補作も粒ぞろいとあってはそれは難しいデスね。
 とは云え、色々とノミネートされたのも納得できる出来映えではありました。

 そしてジェニファー・ローレンスだけは、本作で主演女優賞を受賞しました。また、アカデミー賞に先立って、ゴールデングローブ賞でも主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞しております。若干、二二歳で凄いものですが、劇中でのジェニファーはとても二二歳には見えません。見事な演技のお陰で、もっと年上に見えます。
 ジェニファーは『ウィンターズ・ボーン』(2010年)でもアカデミー賞主演女優賞にノミネートされておりましたが、今般二度目のノミネートでオスカー女優の仲間入り。
 でも、ジェニファーに賞をあげるなら『ウィンターズ・ボーン』の方が良かったような……。
 あるいは、ジェニファーは放っておいてもいずれ必ずオスカー女優になるのだろうから、受賞はもう少し待って次の作品あたりにしておいて、今回は対抗馬であった『ゼロ・ダーク・サーティ』のジェシカ・チャステインにあげたかった……。
 いや、本作と『ゼロ~』を比較しただけで、他の候補作はまだ観ていないのですが(汗)。

 私はどちらかと云うと、ジェニファーの相手役であるブラッドリー・クーパーが主演男優賞を獲るかと思っていたのですが、そこにはダニエル・デイ・ルイスと云う強敵が立ちはだかっておったのでした。残念デス。
 他にもデンゼル・ワシントンとか、ホアキン・フェニックスとか、ライバル多かったしねえ。

 本作はブラッドリー・クーパーとジェニファー・ローレンスが主演であり、二人のロマンスが本筋ですが、共演者が豪華です。特にブラッドリーの両親役で登場する、ロバート・デ・ニーロとジャッキー・ウィーヴァーの演技も素晴らしいです。
 本作では、主演カップルがアカデミー賞にノミネートされているだけでなく、こちらの両親役も助演男優賞と助演女優賞にノミネート。個人的には、デ・ニーロ親父よりも、ジャッキー・ウィーバーのお母さんの方が印象的でした。
 実のところ、こちらにも助演女優賞をあげたいところでしたが、アン・ハサウェイがいたのだから仕方ない。実際、助演女優賞は『レ・ミゼラブル』のアン・ハサウェイでしたねえ。でもジャッキー・ウィーバーも、アンの次くらいには良かったデス。

 他にもクリス・タッカーがブラッドリーの友人(患者仲間)として登場し、主人公の恋路をちょっとサポートしてあげる図がなかなか微笑ましかったです。
 クリスは『恋愛だけじゃダメかしら?』(2012年)にも脇役で登場し、出番が少ない割に美味しい役どころを演じておりました。最近は主人公よりも、主人公の友人とかの役の方が多いのか(しかも似合ってるし)。
 本作でも「ちょっとイイ奴」を楽しげに演じております。

 監督は『ザ・ファイター』(2010年)のデヴィッド・O・ラッセル。あちらもオスカー六部門にノミネートでしたから、才能は本物ですねえ。
 でも『スリー・キングス』(1999年)を観たときには、それほどの監督とは思えなかったのですが。腕を上げたのか。
 また、ジョージ・クルーニーと大喧嘩していたなんて逸話もあったりするので(他にもラッセル監督と喧嘩した俳優は大勢いるらしい)、難しい監督なんですかね。
 本作のパンフレットには町山智浩氏の解説が載っておりまして、それに拠りますとラッセル監督がたびたび俳優やスタッフと衝突するのは、彼が軽度の双極性障害(躁鬱病)であるからだとか。キレると、暴言吐きまくりで手が付けられないようです。

 本作はまさに「双極性障害を患う男」が主役でありますので、原作付ではありますが監督にとっては自分のことが多分に投影されているのでしょうか。
 監督自身は本作を「息子の為に作った」と云っておられます。ラッセル監督の息子さんもまた双極性障害(しかも重度)だそうで、「双極性障害を患う男」がそれを乗り越えて幸せを勝ち取るストーリーなのも、息子を励まそうというメッセージなのだそうな。
 ちなみに、その息子さんも本作にカメオ出演しております(デ・ニーロに怒鳴られるカメラ小僧役)。ちょっと親バカも入っていますね。

 本作でのブラッドリー・クーパーの演技が見事なのは、監督の実体験に基づく演技指導が入っているからでしょうか。一見、普通に見えるが、何気ないことが原因で激情に駆られる様子が真に迫っておりました。コワイ!
 また、ベラベラと喋り続ける主人公のトークも凄くて笑いを誘っております。あふれ出す言葉の量が圧倒的です。
 本作は脚色賞でもアカデミー賞にノミネートされておりましたが、ラッセル監督が脚本も書いておるのですね。

 ブラッドリー演じる主人公は、妻の不倫が原因で心のバランスが崩れ、仕事も家庭も全て失ったと云う設定です。激情に駆られて不倫相手を半殺しにするものの、心神喪失で刑務所行きを免れ、精神病院に収容されている。
 しかし退院したときには、既に妻は去り、裁判所からは接近禁止命令も出されていた。
 普通なら破綻した結婚生活を諦め、心機一転の生活を始めるものだし、両親もそう勧めるのですが、ブラッドリーは諦めません。
 自分がマトモになれば妻は戻ってきて、ナニもかも元通りになると信じ込んでいるのが哀れです。統合失調症の恋愛妄想に近い言動から、彼がサッパリ完治していない様子が伺えます。愚かな行動が観ていて実にイタい。
 そんなときにブラッドリーは友人宅で、友人の義妹ジェニファーと知り合う。
 ジェニファーもまた新婚早々に警官の夫が殉職し、それが原因で奇矯な行動を取っては周囲を困らせている難物だった。

 本作は心に傷を負った男女が、印象の悪い出遭いを経て、衝突を繰り返しながら、次第に惹かれ合うと云うお約束な展開を辿りますが、ラブコメにしてはちょっとシニカルな笑いが過ぎるでしょうか。
 やがてブラッドリーは成り行きからジェニファーに付き合わされて、ダンスコンテストに出場することになる。だがそれは思わぬ方向に転がって、両親の老後の生活──引退後はレストランを開業する予定であることが劇中で語られる──資金を賭けたギャンブルへと発展していく。まあ、半分はデ・ニーロ親父の所為なんですけどね。
 息子がダンスコンテストで立ち直れなければ家庭崩壊と云う大博打になってしまって大丈夫なのか。そんなイチかバチかの大勝負を。
 家族は運命共同体なのだと云う信念……なのかな?

 中盤まではブラッドリーのクレイジーさが際立っておりますが、だからと云ってそれで社会に背を向ける必要は無いと示すストーリーが前向きで力強いです。そして人は互いに寛容であることが大事なのだ(真夜中に叩き起こされても堪忍袋の緒を切らずにいるのは並大抵ではありませんけど)。
 それに誰だって多かれ少なかれクレイジーなところはある、と暗黙の内に示してくれる演出が巧いですね。

 例えば、デ・ニーロ親父。息子が双極性障害なら、親父は強迫性障害じゃないのかと思いたくなるくらい、この人も結構、偏執的で笑えます。
 まず、TVのリモコンをキチンと並べて置きたがる(いますね、こういう人)。家庭内にリモコンが何台もあるのは常識的な光景です。TVとビデオとエアコンで、もう三台。家庭によっては他にもゲーム機やナニやらあることでしょう。
 これらがテーブルの然るべき場所に並んで置かれていないと落ち着かない。
 また、部屋に置いてある封筒の数にもコダワリがある。いかに自分の仕事に必要だからといって、息子が封筒を一通、ちょいと失敬しただけで妙に騒ぎ立てたりします。

 そしてアメフトの試合中継を観戦するのに、過剰にゲンを担ぎたがる。
 「息子と一緒に観戦しないと、贔屓のチームが勝てない」と思い込んでいるらしく、やたらと「一緒に観戦しよう。お前の幸運のパワーを分けてくれ」と迫ってくる。
 これは強迫症状の一種ですね。リモコンの配置については、明かに不完全強迫──物が順序よく並んでいないと気が済まない──と云えるでしょう。
 自分の行動が試合の勝敗に影響を与えていると考えたがるのも、その一種か。

 他にも、ブラッドリーが定期的に検診を受ける精神科医の先生(アヌパム・カー)もそう。
 実は先生は熱狂的イーグルス・ファンである、と云うのが後半で明らかにされます。フィラデルフィア在住で、地元のアメフト・チームを応援するなら、そうなるのが当然ではありますが。
 それにしても、普段の診察室にいるときの厳めしい雰囲気と、打って変わって顔面にペイント入れまくり(チームカラーが緑色)で、スタジアムに乗り込んでくる様子は別人のようデス。
 人は誰しも、ちょっとずつイカレているのである──と云う、監督の主張がよく判ります。

 しかし結末は割とベタでしたね。いや、「割と」どころではないか。もうベタベタ。
 擦った揉んだの末に無事にダンスコンテストに漕ぎ着け、審査員の得点も賭けに勝てるギリギリのポイント。家庭崩壊を免れて歓喜の一同。
 そんな中で、コンテストを観戦していた元妻を見つけて歩み寄るブラッドリー。
 もはや偏執的に激昂することもない。
 しかし、穏やかに会話する二人の姿を見るジェニファーは、哀しげな顔をしてその場から駆け去って行く。あまりにも乙女チックと云うか、ベタな少女漫画展開を本気でやってくれたので、ちょっと笑ってしまいました(なんで勘違いしちゃうのかな)。
 元妻とのケジメをつけたブラッドリーが戻ってくると、ジェニファーの姿が見えない。
 そこでデ・ニーロ親父のダメ押しの台詞(もはや何を云おうとしているのか、手に取るように判りますね)。
 「親父の説教など聞きたくもなかろうが、云わせてもらうぞ。あんな良い娘は他にいない。早く後を追わないか」
 慌てて会場から飛び出すブラッドリー。泣きながら去ろうとするジェニファーに追いつき……。

 いやもう、絵に描いたようなハッピーエンドで、それで本当に良いのかと云いたくなるくらいお約束のテッパン展開でした。王道をいくと云えば聞こえはいいのですがねえ。
 クライマックス前までの感動的な展開を、こんなベタなオチにした所為でアカデミー賞では作品賞を逃してしまったのではと思えてなりません。




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