2013年2月9日土曜日

脳男

(のうおとこ)

 第四六回江戸川乱歩賞(2000年)を受賞した首藤瓜於の同名小説を、瀧本智行監督で映画化したのが本作です。瀧本智行監督と云えば、『はやぶさ 遥かなる帰還』(2012年)の監督さんでありますね。
 原作小説の方は読んでいないのですが、江戸川乱歩賞選考委員が満場一致で受賞を決定したというくらいなのだから、それなりの出来ではあるのでしょう。でも映画の方はどうかなー。
 実はかなりビミョーな出来でありまして、原作からしてそうなのか、脚本がマズかったのか、判断がつきかねます。
 本作の脚本は真辺克彦と成島出の共同脚本です。成島出と云えば『八日目の蝉』(2011年)や『聯合艦隊司令長官 山本五十六』(同年)の監督でもある方ですが……。

 生まれつき高い知能と、驚異的な身体能力を併せ持ちながら、人間らしい感情を一切表さない謎の美青年、鈴木一郎くんを主役にしたサスペンス・ミステリです。劇中では連続猟奇殺人と凄惨な爆弾テロも描かれ、バイオレンス色濃厚であるので、PG12指定も喰らっております。
 謎の鈴木一郎くんを演じているのが、生田斗真です。『源氏物語/千年の謎』(2011年)で光源氏を演じておりました。本作では更にミステリアスなイケメンを演じております。
 本作では生田斗真の魅力が炸裂しております。ファンには堪らんでしょう。
 ぶっちゃけ、本作は生田斗真の迫真の演技力だけで保っていると云っても過言では無い。

 主人公が沈着冷静かつ無表情であるので、周りのキャラクターが泣いたり喚いたりして対比させようという演出であるのは判らないではありませんが、必要以上に感情的になっているようにも見受けられました。
 ストーリーに関係してくる精神科医が松雪泰子です。理性的な女医さんではありますが、割とすぐ感情的になる人です。涙もろいのか。
 理想主義者であるのでしょうが、良識的な台詞がどうにも綺麗事のように聞こえます。

 もう一人、事件を追う刑事として江口洋介が登場します。これがまた松雪泰子とは違う意味で感情的。この場合は直情的というのか。ワイルドで口べたで品行方正とはとても云えない。はっきり云って暑苦しい刑事デス。
 頭脳的なサスペンス・ミステリ映画に、一人だけ『太陽に吠えろ』な刑事が混じっている。
 絵に描いたような熱血刑事ではありますが、あまりに判り易いキャラクターで、ドラマから浮いている感じがしました(江口洋介の熱演の所為で余計に空回りしている……)。

 これに比べれば、犯人の方がずっと不気味でストーリーにマッチしております。
 本作はミステリですが、最初から犯人は割れておりまして、「誰がやったか」はもはや謎でも何でもありませんです。倒叙式ミステリの一種ですね。
 だから二階堂ふみと太田莉菜の、病的でいびつな美少女コンビの犯行を、もっと詳しく描いて戴きたかった。二階堂ふみは『悪の教典』(2012年)にも出演しておりましたが、本作の方がずっと印象的です(そりゃ犯人ですから)。
 拉致した人間の舌を切り取って口をきけなくしてから、身体に爆弾を巻いて街頭に放り出すと云う無差別爆弾テロのやり口が実に猟奇的で残酷であります。

 この二人と、鈴木一郎くんの対決をもっと前面に押し出して描いてくれれば面白くなったと思うのですが、本作では犯人にあまり出番はありません。
 犯人と間違えられて逮捕された鈴木一郎くんのミステリアスさを強調する為に、警察や病院内部での描写の方が長くなってしまっている。そして検査結果の異常さや、常人離れした反応について詳細に語られます。
 そこまではいいとしても。

 あまりにも鈴木一郎と云うキャラクターを詳細に描こうとして、ヤリスギてしまった気がします。
 結果として、長々と出生から少年時代の生い立ちの説明までやってしまって──御丁寧に回想シーンまできちんと挿入し──事件の捜査が中断されてしまいました。ドラマのテンポが悪くなるから、ここまで説明しなくても良かったのに。
 おかげで本作を観ると「鈴木一郎がどういう人か」と云うのが、凄く判り易いです。何故こんなことをするのか、観ている側の疑問にすべて答えてくれます。

 ミステリアスに登場した鈴木一郎くんを、あまりにも説明的に描いてしまった為、その魅力であるミステリアスな雰囲気をかなり損なってしまったように思われてなりません。勿体ない。
 そしてその逆のことが犯人コンビについて云えます。
 ストーリーがあまりに「鈴木一郎の為人」を説明する為に費やされるので、犯人達が何を考え、何故殺人を犯し続けているのかが、よく判りませんデス。
 二階堂ふみも頑張って猟奇的な演技を披露してくれているのに。惜しい。

 後半のストーリーは、二階堂ふみが生田斗真に執着することで強引に展開していきます。
 実は両者は似たもの同士である、と云うのが台詞の中にあるのですが、それにしては探偵と犯人の対比が巧く行われておらず、台詞だけが上滑りしている感じがいたしました。
 二階堂ふみの方もきちんと描いてあげれば良いのに。
 いや、どちらかと云うと、犯人役の方を詳細に描くべきで、探偵役の一郎くんはミステリアスなままでいてくれた方が良かったのに。

 悪党を許さない殺戮機械であるのはいいのですが、動機も生い立ちもすべて説明されてしまったので、「怖くない」のは如何なものか。鈴木一郎くんにはもっと「怖い人」であってもらいたかった。
 一緒にいたらナニしですか、判ったもんじゃないと云う不気味なところが、親切な説明演出のお陰でキレイさっぱり消えてしまいました。
 『羊たちの沈黙』(1991年)のハンニバル・レクター博士のようなキャラを目指すべきだったのでは。本作は『羊たちの沈黙』になる前に、『ハンニバル・ライジング』(2007年)をやってしまったようです。

 不気味さが消え、「無愛想で言葉少なく、明晰な頭脳と鍛え上げられた肉体で、悪党共を退治する」と云う特徴だけが残され、これだけでは他の作品のヒーローと大して変わりがない。
 類似の主人公として、すぐに思いつくのが先日観たトム・クルーズ主演の『アウトロー』(2012年)です。ジャック・リーチャーをもう少し若くして、無愛想にすれば鈴木一郎くんになるような。
 「裁きは自分で下す」ところも同じですし。リーチャーさんはそこまで猟奇的じゃないか。

 もうひとつ。「脳男」と云うネーミングはどうにかならなかったのか。原作のタイトルなんだから仕方が無いとも云えますが。
 劇中では主人公の幼年時代を説明する医師(石橋蓮司)が、そう名付けたと語る場面があります。
 「感情を持たず、膨大な知識を吸収し、まるで脳だけで生きているよう」だから、「脳男」。しかし脳だけで生きているにしては、結構アクションもこなしてくれるので、あまり言葉から感じるようなイメージではないと思われますデス。

 それから気になるのが、「無痛症」と云う設定。
 『ドラゴン・タトゥーの女』に始まるスウェーデン製ミステリ、『ミレニアム』三部作にも、主人公リスベットに関係する重要な役で「無痛症の男」が登場いたしますし(第二部「火と戯れる女」以降)、近年の韓国映画『痛み』(2011年)でもクォン・サンウ演じる主人公が「無痛症の男」でした。
 でも個人的に、「無痛症」を「無敵のタフガイ」であるように描くのは如何なものかと思っておりまして。

 痛みを感じない人間は、怪我に対する防御反応が欠如する──学習できない──為、骨折や脱臼を繰り返し、その状態で動く為に、更にその症状を悪化させていく傾向にあるそうで、まさにそういうことをクライマックスでやってくれます。
 痛みを感じないからと云って、「だから死なない」ということにはならないでしょうに。

 それに地下駐車場でのクライマックス描写はクドい。くどすぎる。
 何回、車ではね飛ばせば気が済むのか。いや、それよりも一郎くんが何の策も持たずに犯人との対決に赴くわけがないと思うのに、ただはねられては起き上がることを繰り返すのみなのもイカンでしょう。
 ついでに云ってしまうと、「何故、二階堂ふみが地下駐車場にいる」と判ったのかの説明がありません。

 やたらと主人公を描く為に親切な説明を入れてくれる演出ですが、事件を描くことについては雑なところが目立つと云う点も気になったところでした。
 そもそも序盤の、犯人逮捕の場面にしてもそう。警察は爆弾製作に使用された特殊な工具から足取りを追っていったのに、鈴木一郎がその場に居合わせた理由がまったく判らない。
 常人には計り知れないからとスルーしてしまうと、ただの御都合主義と変わらないのでは。

 色々と脚本的に穴のある展開ですが、それを補っているのが生田斗真の演技です。
 特に微妙な表情の変化を捉えたショットが忘れ難い。逞しい筋肉を披露してくれるサービスもありますし。
 続編があるなら──原作には『指し手の顔 脳男2』があるそうですが──そのまま演じて戴きたい。生田斗真が主演するなら、観に行くのもやぶさかではないです。

 それから音楽的にも本作は、なかなかカッコいい劇伴を聴かせてくれます。本作の作曲家の中に、今堀恒雄の名前が見受けられました。アニメの『トライガン』から好きな作曲家のひとりです。
 また、主題歌であるキング・クリムゾンの「21世紀のスキッツォイド・マン」も印象的でした。あのイントロは耳に残りますねえ。




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