2013年2月9日土曜日

ムーンライズ・キングダム

(Moonrise Kingdom)

 毎度の事ながらウェス・アンダーソン監督作品は実に奇妙で味わい深いデス。
 ニューイングランド地方の風光明媚な平和な島に降って湧いた騒動。とある少年と少女による駆け落ち事件の顛末がユルユルと描かれます。
 『ダージリン急行』(2007年)と同じく、共同脚本にロマン・コッポラの名前が挙がっております。この人はフランシス・コッポラ監督の息子さんか。へー。

 時代背景が一九六五年というのも、ちょっとユルくてレトロな雰囲気がしますね。なかなかいい感じデス。
 特にアナログレコードのプレーヤーを持ち出して屋外で聴くと云う描写がいい。イマドキだとデジタルな携帯音楽プレーヤーになるのでしょうが、趣がないわな。音楽の選曲もまた独特です。
 平和な島にあるボーイスカウトのキャンプから隊員の少年が脱走。時を同じくして島の町長宅からも娘が家出。二人は駆け落ちしたと判明し、それを追って大人達が右往左往するというコメディ・タッチのドラマです。
 主演の少年少女が、ジャレッド・ギルマンくんとカーラ・ヘイワードちゃん。
 子役の少年達の台詞にたどたどしいものを感じますが、全体的に登場人物が皆、妙に訥々と喋るので、これもアンダーソン監督の演出でしょうか。なんか小津安二郎に通じるものを感じます。

 本作では「ボーイスカウト」とは云わずに「カーキスカウト」なる用語が使用されておりますが、日本のスカウト隊の構成とは異なるものなのかしら。
 日本じゃ「ボーイスカウト」の他に、年少の「ビーバースカウト」や「カブスカウト」、青年らの「シニアスカウト」や「ローバースカウト」なんてのがあったと記憶しております。今じゃ「シニアスカウト」とは云わずに「ベンチャースカウト」と呼称するのか。むう、よく判らん。
 大昔、私が所属していた頃とは様変わりしておるのでしょうか。備えよ常に。

 子供に振り回される大人達の配役が豪華です。
 スカウト達の隊長がエドワード・ノートン。島の町長夫妻がビル・マーレイとフランシス・マクドーマンド。そして島でただ一人の警察官である署長がブルース・ウィリスです。
 ビル・マーレイとかのアンダーソン監督作品の常連に混じって、こんなところにもブルース・ウィリスが出演しておられる。最近のブルースは仕事を選ばないというか、あちこちで顔見せしておりますなあ。そのくせちゃんと『ダイ・ハード/ラスト・デイ』(2013年)にも主演しているし、働き過ぎだブルース。
 また、フランシス・マクドーマンドと云うと、『マダガスカル3』(2012年)に登場した鬼のデュボワ警部役が忘れ難いですね(アニメの吹替でしたけど)。
 そして後半になって登場する児童福祉委員の役が、ティルダ・スウィントンです。

 事務的に島の様子を紹介してくれるナレーター役が、ボブ・バラバンでした。一人だけネイチャー・ドキュメンタリーの司会ような役柄が妙に可笑しいデス。
 ボブ・バラバンと云うと、SF者としては人工知能〈ハル9000〉の開発者チャンドラ博士役が忘れ難い(古いデスカ)。
 それから、エドワード・ノートンの上司であるスカウト司令官がハーヴェイ・カイテルでした。
 地味な作品なのに豪華すぎる配役です。

 ローティーンの少年少女が恋をして、周囲の大人達の反対を押し切り、駆け落ちに至る(途中で結婚式までやらかして)と云うストーリーに、どうにも〈ドコカデミタ感〉を拭い去ることが出来ません。
 これは『小さな恋のメロディ』(1971年)ではないか。本作の背景が六〇年代後半であると云うのも、その所為かしら。
 本作は、ウェス・アンダーソン版『小さな恋のメロディ』と申せましょう。かなりキミョーなリメイクになっておりますね(いや、リメイクじゃないか)。
 出来ればビージーズの「メロディ・フェア」や「若葉のころ」とかを劇中で流して戴きたかったが、そこまでやるとあからさまか。そもそも音楽のチョイスがアンダーソン監督の趣味に合わないよなあ。
 うーむ。トレーシー・ハイドって、今はどうしているのでしょうか(知りたいような知りたくないような。でも知れば必ず後悔するような)。

 それはさておき、『小さな恋のメロディ』では少年少女が駆け落ちするところがラスト・シーンでした。その先は描かれないし、描かなくても良いのである──むしろ描いてはいかん──と、かの淀川長治大先生も仰っておられました。
 「アレはあそこで終わるからいいんですね。そこからどうなるかを考えると、途端に生臭くなりますね。イヤですね。キレイに終わる、見事なファンタジーですね」といった旨の解説をしておられたと記憶しております(日曜洋画劇場で)。
 本作はその逆で、二人が駆け落ちするところから始まります。
 ではリアルに侵食された生臭いハナシになったかと云うと、そうはなりません。物語はそのままファンタジー路線で突っ走ります。

 本作はまるでリアルではありません。アンダーソン監督が意図的にそうしているのが伺えます。大人達も登場する現実的なストーリーに見えて、まるでファンタジー。
 全編、これ寓話なのです。
 そもそもボーイスカウトのキャンプからの脱走と云うのがヘンだ。一体、いつからあのスカウト達はあそこで暮らしているのか。長期のサマーキャンプだったのか。それにしては特に目立った活動もしていないし、隣の島にあるスカウトの本部も、ナニをしているのかよく判りません。

 多分、大人が主人公なリアル路線のストーリーにすると、あれは「ボーイスカウト」ではなく、「軍隊」として描かれた筈だと考えます。ボーイスカウトのキャンプは、リアルに考えると軍の基地か駐屯地になるハズ。
 その伝でいけば、身寄りがなく軍隊にしか居所のない青年が町長の娘と出会って脱走して、駆け落ちの逃避行へ──と云う、ありがちなラブストーリーになったのでは。それだと深刻になりすぎて、さっぱり面白くないと思いますが。
 それを当事者の設定年齢を引き下げ、十二歳の少年少女にしてしまった為に、リアルな生活感を一切廃したファンタジーになった。巧い処理の仕方ですね。

 「サムとスージーの駆け落ちが、島のみんなに魔法にかける」と宣伝されておりましたが、駆け落ちする前からファンタジーだったのです。
 すべてが少年少女らによる「ごっこ遊び」のようで、リアルではない。駆け落ちして、どこで暮らすのかとか、生活はどうするのかとか、とてもじゃないが長続きするようには思えませぬが、そこにツッコミ入れる人はそもそも本作を観てはイカンのですね。
 子供の遊びに大人達も参加して、どこまでも大真面目に進めていく。全部、マジにやっています。だから余計に可笑しく感じられます。

 でも登場する子供達の方はファンタジー路線を突っ走っておりますが、大人達の方はヘンなところでリアルを脱却しきれない。片足だけ現実に残っているような演出が見受けられます。
 エドワード・ノートン演じる冴えないスカウトの隊長が、実は本職が「数学の先生」であるとか(本人は「教師が副職で、隊長が本職」と云っておりますけれど)。
 他にも、ブルース・ウィリスの署長とフランシス・マクドーマンドの町長夫人が不倫関係にあると云う設定もある。妙なところで、ちょっとだけ生臭い。
 このあたりのファンタジーとリアルの匙加減が、一種独特なのがアンダーソン監督の妙味でしょうか。

 クライマックスでは記録的な暴風雨が上陸し、島の住民が避難する中、児童福祉局に引き裂かれそうになった恋人たちが、教会の尖塔に登ると云う、それなりにスペクタクルな場面も用意されてはおりますが、あまりシリアスな緊迫感は伝わってこないですねえ。なんか合成もチープですし(味わいがあると表現すべきか)。
 この独特の映像センスが、好きな方には堪らないのでしょう。
 文字通り、雨降って地固まるなハッピーエンドもお約束です。

 本作の音楽はアレクサンドル・デスプラが担当しております。あまり名前に馴染みがありませぬが、アカデミー作曲賞に何度かノミネートされている職人作曲家です。
 実はこの人が劇伴を担当した映画は結構、観ておりますねえ。
 アンダーソン監督の前作『ファンタスティックMr.FOX』(2009年)は勿論、近年だけでも『ゴーストライター』(2010年)、『英国王のスピーチ』(同年)、『ハリー・ポッターと死の秘宝』(2010-2011年)、『ツリー・オブ・ライフ』(2011年)、『おとなのけんか』(同年)、『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(同年)、『スーパー・チューズデー/正義を売った日』(同年)、『アルゴ』(2012年)、『ゼロ・ダーク・サーティ』(同年)と沢山ありすぎです。
 働き過ぎなのはブルース・ウィリスだけではなかったか。
 しかしタイトルを挙げられて、パッとメロディが思い浮かぶかと訊かれると、甚だ心許ない。ドラマの筋はどれも皆、印象的なのですが。デスプラの劇伴は、物語を地味に支える映画音楽の鑑のようなものですね。

 だからといって、エンドクレジットでベンジャミン・ブリテンの「青少年のための管弦楽入門」を延々と演奏し続けるのには笑ってしまいますが。いや、これはデスプラの所為ではなくて、アンダーソン監督の趣味か。
 御丁寧にジャレッド・ギルマンくんに、主題の変奏を楽器毎に解説させるナレーションまで付けております。面白いことは面白いけど、それをする意味がよく判りませんデス。
 そこがウェス・アンダーソン監督の奇妙な味わいなのでしょうが。




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