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2013年2月1日金曜日

ベルセルク/黄金時代篇 III 降臨

(BERSERK)

 本当に一年で黄金時代篇を三部作にして公開出来たとは素晴らしい。欲を云うなら年を越えないうちに本作も公開して戴きたかったが、そこは色々と事情もあるのでしょう。
 何はともあれ、いよいよ黄金時代篇の完結です。これが本題。まともに〈蝕〉と〈降魔の儀〉を描く為に前二作が必要だったと云っても過言ではないでしょう。その意味では期待通りの展開と云えます。
 しかし「ガッツの帰還」から「グリフィスの救出」、「ベヘリットの発動」を経て「蝕」に至り、更に「踠く者としての旅立ち」までを二時間弱で描ききるのはいかにも苦しい。
 結果として色々なところで省略された展開が目立ってしまい、もう少し何とかならなかったのかと感じてしまうことしきりでありました。いや、頑張っておられるのは判るんですけどね……。
 アダルト描写もしっかり盛り込まれておりますし。

 しかし黄金時代篇の前に来る序章が丸ごと欠落しているので、ベヘリットとゴッドハンド達についてが説明不足な感がするのはやむを得ないでしょうか。
 今からでももう一作、序章を追加して製作して戴きたいものです。

 今回は今まで敢えて描写を避けてきた非現実的ファンタジー色が冒頭から濃厚です。もう前振りなしに山中での使徒の目撃とか、地下牢への魔の出現とか、ブチかましてくれます。
 でもやっぱり展開を急がねばならないので、第二部のラストから一年が経過しているという実感がイマイチ感じられないのが辛いです。
 お尋ね者となり逃亡を続ける〈鷹の団〉のピンチに、すんなりガッツが帰ってくるので尚更です。どうやって〈鷹の団〉の窮地を知ったのか説明は無い。一年間、山中にこもって修行していた経過が説明されないので、終盤に登場するエリカ(竹達彩奈)の登場も意味不明ですし。
 知っている者だけに判るというのは如何なものか。

 「可能な限り原作に忠実な描写を心がける」のは良いのですが、それでも所々の場面を省略して描写を間引いていくので、結局のところ初心者には不親切な展開になっているのでは無いかと心配デス。

 例えば〈バーキラカ〉の皆さん。何とか出番はありましたが、何者なのかという説明がありません。本作では〈鷹の団〉を襲撃する正規軍の尖兵であるかのように登場します。シラット(中村悠一)が登場してくれるのはいいのですが、ここでガッツと初顔合わせとなり、大道芸を披露し、敗北してそれっきり。
 ミッドランドの正規軍とあからさまに異なる連中が混じっているのに、誰も不自然に思わないのか。アクションシーンの作画は見事なだけに残念デス。

 本作ではクライマックスに来る〈蝕〉に備えて、ドラマの前半はキャラクターの心情を描くことに傾注していると見受けられ、ガッツとキャスカの心情や、グリフィスの少年時代からの憧れ、そして絶望などが細やかに描かれておりまして、その点は素晴らしいデス。
 特に夢破れたグリフィスのもらす嗚咽の声は櫻井孝宏の名演技です。
 ガッツとキャスカのラブシーンが濃厚なのも結末の為にはきちんと描いておかないとね。

 緩急付ける脚本であるのは巧いと思います。やはり突っ走ってばかりだとドラマが一本調子になりますからね。
 だから序盤のアクションの後、ガッツとキャスカの濃厚ラブシーンを入れてから、グリフィスの救出となるし、そのあとも追っ手を振り切り、ゆったりした小休止の場面が入るのは、流れとしてはイイ感じだと思います。
 この場面のこの芝居にはこれだけの「間」が必要なのであると云う信念の元に演出されているのは判ります。

 だからその分、他のところにしわ寄せが来る。
 グリフィスの救出劇が割とあっさりだったり──シャルロット姫(豊崎愛生)の出番はあれだけか。王様が老け込む場面もないし──、その後の追撃シーンも迫力ある作画ではありますが……。
 やはり〈黒犬騎士団〉とワイアルドさんは全面カットです。「エンジョイ&エキサイティング」な場面を期待したのですが(泣)。
 きちんと全部描くには、ピーター・ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング』(エクステンデッド・エディション)並みに一作あたり三時間超の三部作でないとイカンのではないか。

 でもグリフィスの夢と絶望については、しっかり描かれておりました。
 そしてそこから先が本題ですので、展開が省略されるのもここまでデス。
 ベヘリットの目鼻立ちが整い、遂に発動。ベヘリットの慟哭が人間の声ではない「異常な音」として演出されておりました。なかなか印象的な効果音です。
 人面だらけの異界の風景も気合い入れまくり。
 そして満を持して登場する四人のゴッドハンド。『ヘルレイザー』(1987年)の魔道士をリスペクトしまくりですねえ。
 本作での配役は、ボイドに小川真司、ユービックに茶風林、コンラッドに小山力也、スランに沢城みゆきという布陣です。ベテラン揃いなのが嬉しいですね(それにしても、此奴らの名前はSF者には馴染み深い者ばかりです)。
 アニメでもスランの女体がきちんと描かれておりましたます(ついでにボイドの顔面も)。
 それから〈髑髏の騎士〉が大塚明夫でした。

 ところで、このグリフィスが転生する場面の原作は、連載中の一話分が単行本収録の際に丸ごとカットされておりました。この部分はどう処理するのだろうかとちょっと気になっておりましたが、やはり単行本に準拠した展開になりましたか。神との対話はやはりカットか。

 そして始まる大殺戮。本作がR15指定になっているもう一つの理由ですねえ。
 ホントに血の海が出来るまで殺して殺して殺しまくります。エゲツない。
 この場面は本作の白眉であります。これが観たかった。
 確かにそうなのですが、ここがきちんと描かれているだけに、他が端折られているのが気になって仕方がない。

 色々と云いたいことはあれど、云い出すとキリがありませんかねえ。ゾッドの再登場や〈髑髏の騎士〉もあんなものか。
 特にゾッドは、第一作『覇王の卵』での登場以来、出番が省略されておりましたので、ここでやっと二回目になります。おかげでちょっとインパクトに欠けましたか。
 〈鷹の団〉は壊滅し、ガッツも隻眼隻腕となる。絶体絶命のところを〈髑髏の騎士〉に救われる。

 意識を取り戻すと何処とも知れぬ洞窟の中で、リッケルトとエリカの手当を受けていた。キャスカも助かっていたが、その記憶も人格も失われ、ガッツを見てもただ怯えるばかり。
 堪えきれずに飛び出したガッツは闇雲に山谷を駆け回り、亡霊共に襲われる。
 〈髑髏の騎士〉が三度現れ、ガッツの運命を説いてくれますが、如何にも説明不足。
 夜明けまで剣を振り続け、曙光の到来と共にエンディングです。うーむ。
 クライマックスが過ぎた後まで、ストーリーがダラダラ続くのは宜しくないとは理解できますが、何とかならないものでしょうか。
 黄金時代篇だけ劇場版にするのが無理な企画なのか。TVシリーズの方がマシだったのか。

 本作の背景美術のクォリティが高いのは見事ですし、CGのモブキャラも前二作ほど不自然ではないです。
 観たかった場面だってちゃんと入っているし、何が不満だ問題なかろうと云われると、その通りなのではありますが……。
 しかし三作通して観たときに、どうにも消化不良な部分があるのではと思われてなりません。ぶっちゃけ、パックは出番なしでも良かったし。

 鍛冶屋ゴドーが登場しないので(だから尚のことエリカちゃんの存在が意味不明)、〈ドラゴンころし〉も最後の最後にチラ見せだけでしたしねえ。
 エンドクレジット終了後に最後のオマケとして、無言で旅支度をするガッツの図が挿入されますが、これがまたTVシリーズの『剣風伝奇ベルセルク』と変わらない終わり方だったのが一番残念でした。
 うーむ。こうするしかなかったのか……。
 これではTVシリーズよりもほんの少しだけマシであるとしか云えませんデス。

 この評価を覆すには、まず『序章』を映画化し、続けて『断罪篇』も『千年王国の鷹篇』も映像化して行くより他にないと思うのですが、どうでしょうか。
 セルピコやファルネーゼにもマトモな出番を与えて戴きたいと切に願います。




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