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2013年1月11日金曜日

96時間/リベンジ

(TAKEN 2)

 最近のリーアム・ニーソンは、すっかりアクション映画俳優になってしまわれましたね。その上、続編に出演することにも抵抗がなくなったとは喜ばしい。
 もう『シンドラーのリスト』(1993年)より、こっちのシリーズを代表作にしましょう。

 本作は、あのB級アクション映画の快作『96時間』(2008年)の続編です。
 仕方がないとは云え、この邦題はまったく意味なしです。かろうじて前作にはタイムリミットがありましたが、本作には時間制限がありませんので。
 観終わって振り返ると、九六時間どころか、なんか二四時間以内にスピード解決しております。でもB級アクション映画にこんなツッコミは野暮ですか。
 それを云うなら原題の “TAKEN 2” だって味も素っ気もない。むしろ邦題には「リベンジ」と付いている分、内容を正しく表しています。

 凄腕の元CIAエージェントであるリーアムが、闇の世界(笑)で培った特殊技能を駆使して、掠われた愛娘を助け出そうと奔走し、三日と経たずに娘を救出したのはいいが、その時には図らずも人身売買組織を丸ごとひとつ壊滅させていた──と云うのが前作の内容でした。
 立ちはだかる悪党共には容赦せず、組織の末端から幹部に至るまで、ビシバシと殺しまくっていったワケですが……。
 どんな悪党でも皆、誰かの息子であり、兄弟であり、夫であり、父である。
 当然のことに、片っ端からリーアムに屠られっていった、あの名もなき男達にも家族がいる。そして家族を殺された恨みは根深いのである。

 本作は『オースティン・パワーズ』(1997年)でギャグにされたネタをシリアスにして一本のストーリーとして製作しましたと云った趣です。あるいは特撮ドラマ『マイティジャック』(1968年)にも似たようなエピソードがありましたね(若い人には判らんか)。
 とにかく殺された男達の肉親がリーアムに復讐しようと企むワケで、大変判り易いストーリーです。

 主演のリーアム・ニーソン以下、主な配役は前作のままと云うのが嬉しいデスね。
 離婚した元妻役がファムケ・ヤンセン。愛娘も変わらずマギー・グレイスが演じております。
 でも監督は前作のピエール・モレルに代わって、オリヴィエ・メガトンになりました。『トランスポーター3/アンリミテッド』(2009年)や、『コロンビアーナ』(2011年)の監督ですね。この人の監督作はリュック・ベッソン製作ばかりですね。そう云えばピエール・モレルもそうでしたし、二人ともベッソンの弟子みたいなものかしら。
 ベッソンはもう製作に徹して、自分で監督しようと思わないことを強くお薦めしたいです。その方が面白い作品になりますよ。

 冒頭、アルバニアの山村で合同葬儀が行われている場面から幕開けです。とても判り易く葬儀を取り仕切っている長老のような老人(ラデ・シェルベッジア)が、リーアムへの恨み言をぶちまけてくれます。
 前作で壊滅させられた人身売買組織はパリを根城に活動している組織でしたが、その構成員はアルバニア人だったと云うのがリアルに感じられます。やはりアンダーグラウンドな商売は外国人──多分、密入国者──なんですかね。
 前作の一場面がチラリと挿入されますが、容赦なしに感電死させられた中ボスらしき男の父親だったようです。よく息子の死に様の詳細が判ったものだと感心します(これも執念かしら)。

 一方、リーアムの方はと云うとアメリカで平和に暮らしている。元妻との取り決めを律儀に守って、娘との面接時間ぴったりに現れるという几帳面ぶり。
 前作と状況が異なるのは、元妻が再婚相手と不仲になりつつある点。既に別居状態であるとか。前作では仲睦まじくリーアムが居心地悪くしておりましたが、本作ではザンダー・バークレーの出番はありません。
 このあたりの非常に作為的な設定変更に、B級テイストが漂いまくりです。
 そして娘にボーイフレンドが出来たと知るや、瞬く間に居所を突き止め、デートの現場に現れる。素晴らしい親バカぶりです。
 でも娘には嫌われますわな。ストーカーの一歩手前ですし(だが世の父親たちの支持を受けること間違い無しでしょう)。

 そして失意の元妻とヨリを戻そうと、元妻と娘を出張先のイスタンブールに御招待。
 リーアムはCIAを退職しても、引退したわけではなく、フリーランスのプロフェッショナルとして仕事の依頼は引きも切らさずのようです。今回はアラブの富豪から護衛を依頼され、きっちりボディガードの任をこなしております。
 この仕事を片付けた後に、元妻と娘を呼び寄せ、数日間の観光旅行と云う段取りだったのですが……。

 本作はイスタンブールでのロケがなかなか効果を上げておりまして、イスタンブール観光の気分も味わえます。有名なスレイマニエ・モスク、ガラタ橋、グランドバザールなどの景観を楽しむことが出来ます。観光名所をちゃんと背景に取り込むのもスパイ・アクション映画の基本ですね(ついでにトプカピ宮殿にも行って欲しかった)。
 その上、気合いの入ったカーチェイス、銃撃戦、爆発、格闘と、必要なアクション描写にも手抜かりなし。
 それにしてもイスタンブールでロケをすると、撮影場所が限られてしまうのか、或いはどの監督もその場所で撮影したいと思ってしまうのか、別の映画でも見た景観が本作でも登場してしまうのは御愛敬でしょうか。
 つい先日も、『007 スカイフォール』(2012年)でジェームズ・ボンドが同じグランドバザールの屋根の上をバイクで駆け抜けていったのを見た気がします(笑)。

 一仕事終えて元妻とゆっくり観光……とはいかず、虎視眈眈とリーアムに復讐する機会を窺う一団が現れる。
 今回は掠われるのが娘ではなくて自分と元妻であります。前作と逆のパターンです。自分一人では問題なく切り抜けられる難局も、素人の女性が一緒では思うに任せず、元妻を人質に取られて万事休す。
 短い時間でホテルにいる娘に電話し「これからパパは、ママと一緒にちょっと拉致されてくるから」なんぞと伝言するあたりに余裕が感じられます(これは前作からのお約束パターンね)。
 実際、パニックに陥っている元妻と対照的に、目隠しされていても乗せられた車の走行距離や方角の見当を付けている描写が流石デス。

 見知らぬ倉庫に監禁されても、予備の小型携帯電話を隠し持っていて、容易くまた娘に連絡を付けてしまう。準備が良すぎるというか、常に万が一に備えて秘密兵器を携帯しているオヤジと云うのはやっかいですね(もはや職業病だろう)。
 それにまぁ、復讐に燃えているとは云え、やっぱり素人の集団ですから。端からプロフェッショナルの相手にはならないような……。

 本作では、拉致を免れた娘がパパに協力してくれると云う展開ですが、かなり無茶なことを色々やらかしてくれます。
 ホテルの部屋に残してあるパパのアタッシュケースに仕事道具が入っているのは良いとしても、なんかかなり危険な道具が色々見受けられます。ボディガードの仕事に関係なさそうな手榴弾も数個ある。こんなものを平気で持ち込めるとは、一体トルコの空港はナニをしておるのか。闇の世界の特殊技能って便利ですねえ(笑)。

 そして携帯電話で指示を与えて娘に手榴弾を一個、爆発させる。
 回線から聞こえた爆発音と、あとから聞こえてきた爆発音の時間差で、監禁場所の位置を補正すると云う演出なのは巧いと思いマスが……。
 イスタンブールの街中で手榴弾を何個も爆発させて大丈夫なワケないだろうとか(街全体が世界遺産みたいなものなのに)、如何に周囲に人がいないことを確かめてから投げろと云ったところで、駐車してある車を一台、吹き飛ばしてしまっておるのですが……。

 このあたり、多少は無茶なことしても気にせず突っ走る演出がB級映画ですね。
 また、相手集団の目的が各々の家族を殺された恨みだと判っていても、なお片っ端から屠っていく態度は如何なものか。頭で判っていても、長年染みついた習慣は変えられないのか。
 監禁場所から脱出し、先に連れ出された元妻を追って、またまた死体の山を築きながら驀進していくリーアムです。
 やっぱりカーチェイスはヨーロッパの狭い路でやる方が迫力ありますね。
 ラスボスを追い詰め、最後は肉弾戦まできっちりこなすリーアム・ニーソンの役者根性に感心します。とても還暦を迎えているようには見えませんデス。

 最後には元妻を救出し、ラスボスである長老を追い詰めますが、ここで見逃してやろうとするリーアム。理由を尋ねられ、お前を殺せば他の息子たちが復讐に来るだろうと答える(劇中では長老にはあと二人息子たちがいると語られている)。
 もうウンザリなんだと心情を吐露するのはいいのですが……。

 見逃してやろうとした敵が、最後に隙を突いてやっぱり銃に手を伸ばし、やむを得ず殺してしまうのは、よくあるパターンです。でも云ったこととやってることが乖離している気もしますよ。そこはB級ですから気にしちゃダメですか。
 なんかこの瞬間に、遺された二人の兄弟が、父と兄の仇討ちに現れるパート3が約束されたような気がします。

 そして無事、アメリカに帰国したところでハッピーエンドのエピローグ。
 正式に娘からボーイフレンドを紹介されて、なかなか気まずいリーアムの表情が微笑ましい。
 今回はボーイフレンドの出番は、序盤とラストシーンのみですが、この先もシリーズ化されるなら、頑張って戴きたい。続編はいくらでも作れそうですし。

 娘の結婚式当日に新郎新婦が掠われ、花嫁の父が闇の世界で培った特殊技能で(以下略)とか、初孫が誕生したところで赤ん坊が掠われ、祖父が闇の世界(以下略)とか。
 あるいはボーイフレンドの親父も実は只者では無かったと云うことにして、『ミート・ザ・ペアレンツ』(2000年)のシリーズみたいにしてしまうのも一興でしょうか。
 がんばれリーアム、『エクスペンダブルズ』に出演できるその日まで。


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