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2012年12月22日土曜日

ホビット/思いがけない冒険

(The Hobbit : An Unexpected Journey)

 私が愛読したファンタジー小説と云えばJ.R.R.トールキンの『指輪物語』、アーシュラ・K・ル=グゥインの『ゲド戦記』、ミヒャエル・エンデの『果てしない物語』などがあるわけですが、本作は云うまでも無く『指輪物語』の前日譚『ホビットの冒険』の映画化です。
 これが映像化される日が来ようとは誠に感無量であります。昔、どこかでアニメ化の企画もあったようですが、遂に目にすることなく、やっと本作で観ることが出来ました。

 それが『指輪物語』と同じく、ピーター・ジャクソン監督(以下、ピージャク)による完全映像化。一時期はピージャクは製作に回って監督はギレルモ・デル・トロだと伝えられたときもありましたが、紆余曲折の末に御本人が監督することになりました。その方が良かったですね。
 『指輪物語』が『ロード・オブ・ザ・リング(以下、LOTR)』として映画された際もそうでしたが、予告編に見るビジュアルがあまりにも見事で、観る前から興奮を抑えきれませぬ。もはや正常なレビューは無理です。
 とりあえず本作は2Dの字幕版を観てから、3Dの日本語吹替版も鑑賞しました。公開が終わる前にもう一回くらい観に行きたいし、DVD化されたら即買いは義務デス。勿論、通常版とエクステンデッド・エディションの両方を揃えて、いずれうちのムスメらを教育せねばなりせぬ。
 本作を観てから帰宅し、『LOTR』のDVDを見始めたら、また止まらなくなってしまって困りました(汗)。

 しかし本作や『LOTR』の見事な映像化を観るに付け、どうして『ゲド戦記』や『果てしない物語』はあんなに中途半端な出来なのであろうかと考えると、誠にやるせない。
 『果てしない物語』は『ネバーエンディング・ストーリー』(1984年)として、そこそこの出来ではありましたが原作の前半だけだし、『ゲド戦記』(2006年)に至ってはもう……(あのアニメは記憶から抹消してしまいたい)。

 さて、本作は原作の完全な映像化(また再びホビット庄や裂け谷といった中つ国の景観をスクリーンで見ることが出来て、本当に嬉しいデス。ニュージーランド万歳)……の筈なのですが、かなり脚色されている部分もあります。決してそれが悪いワケでは無いし、むしろ「そこも観たかったッ!」ところではありますので、こういう追加は大歓迎デス。
 しかしそのお陰で、尺が長くなってしまうのもやむを得ぬところでしょうか。
 本作は当所、前後編の二部作と云われていたように思われますが、いつの間にやら『LOTR』と同様の三部作になっている。まぁ、あんな原作に無い追加場面がテンコ盛りでは仕方ないですわねぇ。
 一場面たりとも原作を省略したくない、むしろ場面を水増しして三部作になるように調整してくれるわ──と云うピージャクのワガママがヒシヒシと伝わってきて、大変好ましいデス。

 原作には無い──『指輪物語』の追補編や、トールキンの別作品で補完された──場面が一大スペクタクルとなって、これでもかとぶちまけられる。素晴らしいデス。
 まずは冒頭の「エレボール陥落の場面」から。
 ビルボ(イアン・ホルム)が赤表紙本の執筆中に過去を回想しながら物語は幕を開けるわけですが、ビルボ自身の体験ではないのに、もう見てきたかのようにビルボのナレーションで火龍スマウグがドワーフの王国を襲撃する因縁から始まります。
 離れ山の下に建造されたエレボールの壮麗な地下宮殿は、『LOTR』に登場したモリアのカザド=ドゥムに勝るとも劣りません。
 そしてそこを襲撃する大怪獣スマウグ。尻尾や、羽や、爪がチラチラと見えるだけで、爆炎と黒煙に隠れて本体は見えません。怪獣映画のしきたりに則った演出ですね。全身像は三部作完結編までは見せてくれないようデス。

 そして『ホビットの冒険』には登場しない、〈茶色のラダガスト〉が本作には登場します。ホントはラダガストは続編の『指輪物語』で、チラリと言及されるだけなのに。
 このあたりは『LOTR』で泣く泣く割愛してしまったラダガストの出番を、ここで割り込ませて溜飲を下げようと云うピージャクの意図がミエミエです。しかしファンとしては、よくぞラダガストを登場させてくれたと感謝したい。演じるシルベスター・マッコイも、動物好きの変人魔法使いを好演しています。
 ラダガストが中つ国に迫る危機を察知する場面も、しっかりとラダガスト自身の語りとして、ドル・グルドゥアの死人使いを映像化してくれます。なんかもう至れり尽くせりという感じデス。
 まぁ、ラダガスト活躍の場面として、魔狼に乗ったオークの集団との逃走劇があるのですが、ちょっとCG合成がイージーなカットが見受けられたのは残念でしたが。

 しかしドル・グルドゥアがラダガストの回想シーンで語られてしまったので、ガンダルフ(イアン・マッケラン)がスライン王からエルボールの地図と秘密の扉の鍵を手渡される場面が無くなってしまいました。本来なら、ドル・グルドゥアに潜入したガンダルフが、そこに幽閉されていたスライン王からアイテムを託される筈だったのですが。
 おかげで本作では、ガンダルフがどうして鍵を持っていたのか、微妙に語られておりません。スライン王の最期についても伏せられているし。
 まぁ、このあたりは『ホビットの冒険』ではなく、『指輪物語』の追補編とかで補完されているエピソードなのですが。

 ナンドゥヒリオンの大合戦も、バーリンの回想でちゃんと画にして見せてくれます。その上、トーリン(リチャード・アーミティッジ)の名前に付いた「オーケンシールド」の由来まで説明する親切演出。ナニもそこまでしなくても(笑)。
 ナンドゥヒリオンの合戦はモリア東門の前で行われたドワーフとオークの一大合戦ですが、これがまた『LOTR』と矛盾しないように、ちゃんと景観を計算して撮られているのも嬉しいです。
 原作と異なるのは、色々と因縁を説明する為に、スロール大王はここでオークの王アゾグに討ち取られたことになっています。またアゾグ自身も戦死することなく、本作ではトーリン達を狙う敵の首領として登場してくれます。
 本作のクライマックスで姿を現したアゾグを見て、トーリンが「貴様、生きていたのか!」と叫ぶ場面がありますが、そりゃ観ているこちらも云いたいわ。
 するとこの三部作の終盤で行われる〈五軍の戦い〉ではトーリンがアゾグとの決着を付ける方向で演出されるのですかね。トーリンの従兄弟ダインは出番なしか(必然的にアゾグの息子ボルグも出番なしね)。

 本作ではドワーフ達のキャラがなかなか面白く、トーリン、バーリン、ドワーリン、フィーリ、キーリといった面々がしっかり特徴付けられているのも嬉しいです。原作だとちょっと判り辛いですからね。
 特にキーリが結構、イケメンです。本作は放っておくと、むさ苦しいオヤジ共と枯れたジジイばかりの映画になってしまいますからね。
 それにしてもボンブールが見事なまでに「足手まといの食いしん坊キャラ」になっていたので笑いました(原作より誇張されているような)。トーリンも、ビルボ(マーティン・フリーマン)を厄介者扱いする前に、まず身内の心配からすべきなのでは(笑)。

 『LOTR』に登場したギムリやレゴラスは本作では登場しませんが、各々の父親が登場しております。ギムリの親父グローインはドワーフ組の中では今のところ見せ場なしですが、この先の活躍を期待したいです。また、冒頭にチラリと登場した闇の森のエルフの王スランドゥイルはなかなか印象的でした。
 本作に続く第二部では、いよいよビルボ一行が闇の森を訪れるので、スランドゥイル王の再登場にも期待したいです。さすがレゴラスのパパだけのことはある、数少ないイケメンです。
 一方、ドワーフ組の中では最もキャラの立っているバーリン翁ですが、『LOTR』では既に亡くなっているのがいたわしいです(カザド=ドゥムで〈指輪捨てに行き隊〉がバーリンの墓を発見するくだりがあります)。
 ケン・ストットが愛嬌のある好々爺としてバーリンを演じておりますが、先に末路の方を映像で観てしまっているのでなかなかに切ない。

 それから野郎ばかりで潤いの無い展開を和らげるべく、裂け谷ではエルロンド(ヒューゴ・ウィービング)と一緒にガラドリエル様も登場です。ケイト・ブランシェットの奥方様はお変わりなくお美しい。
 もっともストーリー上は、あまり必要があるとは思えませぬが。
 ついでにサルマンも登場し、なんだかその場で〈白の会議〉を始めてしまったりします。ラダガストを変人扱いするサルマンの図も、『LOTR』で省略されているので、こちらに入りました(ピージャクGJ!)。
 クリストファー・リーもお元気そうですが、日本語吹替版の方ではちょっと心配なこともありました。
 吹替版も『LOTR』からの同一キャラは同じ声優さんが配役されておりますが、サルマン役の家弓家正さんが……かなり声が……その、ちょっと残念。お歳なのか。私の好きな声優さんなんですけどねえ(汗)。

 裂け谷を出て、一行は霧降山脈越えへ。岩巨人のドツキ合いも省略されることなく映像化されました。ほんの数行の描写に、そこまでCG全開のスペクタクルにしなくても(頑張れピージャク。もっとやれ!)。
 続いて一行はゴブリンに囚われる展開で、本作ではここが見せ場の一つです。3D効果を発揮するよう設計された地下空洞のゴブリンの住処が見事です。
 しかし本作ではオークとゴブリンの見分けがなかなか付かないですが、似たようなものだからいいか。
 そして一行とはぐれたビルボがゴラムと出会うワケですが、私はどうしても「ゴクリ」の呼び名の方が馴染み深い。吹替版だけでも「ゴクリ」と云ってもらえぬものか。
 アンディ・サーキス入魂のモーション・キャプチャーが冴えまくり、ゴラムの表情もくるくる変わる見事なCGキャラになっていました。『LOTR』より技術的な進歩が見受けられます。
 〈愛しいしと〉を奪われ涙を流すゴラムが哀れです。このとき、ビルボがゴラムの首をはねようとして思いとどまるワケですが、やはり『指輪物語』を知る者としては、この瞬間に中つ国の命運が決したのだと思うと感慨深い場面であります。

 本作ではゴブリンの住処からの脱出、更にオークの追撃を振り切り、大鷲──風早彦グワイヒア──とその眷属に助けられて霧降山脈を越えるところでエンドです。ちょっとグワイヒアの描写が淡泊なところが気になりましたが、この時点で尺も三時間近いから、これ以上はピージャクと云えど長引かせることは出来なかったのでしょうか。
 ラストシーンで、遙か彼方にようやく離れ山を望み、故郷エレボール奪還に向けて仲間の結束が固まるところで「つづく」。

 ハワード・ショアの音楽も相変わらず素晴らしく、劇伴も統一された世界観を維持する一助となっております。
 特に今般の主題歌、ドワーフ達の歌う「離れ山の歌」がイイ感じで、『LOTR』の主題歌、エンヤの歌う「メイ・イット・ビー」に勝るとも劣りませぬ。
 「メイ・イット・ビー」はエルフの歌という趣でしたが、「離れ山の歌」はドワーフの歌となって、『LOTR』と対になっている感じデスね。エンドクレジットでもニール・フィンがこれを歌っております。
 第二部『スマウグの荒らし場』が待ち遠しいですが、この先二年は楽しみが保証されていると思えば、かなりお得な感じデス(ちゃんと毎年一作ずつ公開して下さいね)。




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