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2012年11月7日水曜日

花の詩女 ゴティックメード

(GOTHICMADE)

 永野護の初監督作品です。今までアニメの監督をされたことが無かったと云うのが意外な感じがします。
 本作は完全オリジナルの新作アニメであり、角川書店六五周年記念作品。
 永野護は監督の他に、原作・脚本・絵コンテ・レイアウト・原画と一人六役の大活躍。もう全編、どこを切っても永野護という感じ。監督の作家性がこれでもかと炸裂しております。
 企画から完成までに七年かかったところにも、少人数の製作体制でこだわり抜いて作り込んだ作品であるのが伺えます。

 が……ぶっちゃけ『ファイブスター物語』(以下、『FSS』)とどこが異なるのかよく判りませんでした(汗)。
 もっとも、もう随分と前から『FSS』を追いかけるのを止めておりましたので──連載が終わっているのか続いているのかもよく判りませんし──、これが『FSS』と世界観を同じにした別時代の物語であると云われても違和感無しデス。限りなく『FSS』ぽい。
 若干、名称が異なるのは巨大ロボットの呼び名で、この世界では〈ゴティックメード〉──略称は「GTM」──と呼ばれています。でもこれが〈ヘビーメタル〉や〈モーターヘッド〉と、どこかどう違うのかよく判りませんデス。
 造形のセンスというかパターンに差異が無いので、同じものを別の名前で呼んでいるだけなのでは。何処かで見たような紋章も見受けられるし(それとも熱烈なファンには見分けが付くのでしょうか)。

 上映時間も短く、七〇分しかありませんし、劇場用の長編アニメ作品と云うよりは、単発のOVAと云う感じデス。
 本作を観て一番思い出すのは、八〇年代に大量に製作されたOVA作品群ですね。
 オリジナル作品なのに単発で完結するので、背後に壮大な設定があるにも関わらず、ドラマの中では匂わせるだけで詳細は不明なままというヤツ。あの頃はそんな作品が大量に製作され、中にはあからさまに続編前提になっているような作品もありました(でも決して製作されることは無かったですねえ)。
 何となく本作には、あの頃のOVA作品と同じ匂いが感じられてなりません。勿論、作画のクォリティは段違いに向上しておりますが。

 多分、本作の設定資料集は並みのTVシリーズ作品と同じくらいありそうな気がします。
 永野護が凝りまくって設定したのであろうメカニック、ファッション、風俗、社会制度、動植物、果ては生活雑貨の小物に至るまで、かなり細かく作り込まれていると見受けられました。
 しかしそれと物語が面白いか否かと云うのは別問題であるような……。

 遠い未来か、昔々の遙か彼方の銀河系での物語のような、なんか『スター・ウォーズ』ぽい背景が伺えます。元から『FSS』は『スター・ウォーズ』ぽいので、それも仕方ないでしょうか。
 人類(か、それによく似た種族)は幾つもの恒星系に植民しており、中には科学文明を失うか放棄して素朴な生活に立ち返る世界もあった。惑星〈カーマイン〉もそのひとつ。
 かつてのテクノロジーは少数の者だけが扱う魔法か秘儀のようになり、人々は原始的な農耕と遊牧の生活に立ち返っている。中央アジアか中近東あたりの風俗をモデルにしているように見受けられます。

 平和な世界のようですが、周辺列強の惑星に脅かされております。〈カーマイン〉が独立を保っていられるのは、神秘的な〈詩女(うため)〉と呼ばれる巫女姫のお陰で、歴代の〈詩女〉は過去の全ての〈詩女〉の記憶を受け継いでいると云う。
 生きているデータベースのような存在はそれなりに貴重であるらしく、〈詩女〉の下す託宣は重用され、一種の宗教的指導者のように尊敬されている。

 あるとき〈詩女〉の交代が行われ、次世代の〈詩女〉に選ばれた少女ベリンは一年間の禊と記憶承継の儀式を経て、新たな〈詩女〉として着任する為に、首都までの長い旅に出る(ゆっくりと地上を旅していくのも儀式の一環のようです)。
 そんな折に〈詩女〉に暗殺の危険があるとの噂が流れ、惑星連合議会は強国ドナウ帝国の第三皇子に首都までの〈詩女〉警護の任を与える。

 どうにも『FSS』の番外編でも観ているようです。
 帝国の装備する人型巨大兵器GTMを操るパイロットは〈騎士〉と呼ばれ、大昔の超絶テクノロジーによって強化されたウォーキャスターと呼ばれる人種であると云う。身体能力に優れ、加速装置でも付けているのかと思われるくらい俊足であったり、剣の腕前も常人を遥かに超えているようです。
 他にも〈詩女〉の護衛に就くボルテッツと呼ばれる魔法遣いも、〈騎士〉と同じく過去の超科学の産物であったりします。勿論、〈詩女〉の記憶承継も神秘的ではありますが科学の産物らしい。
 すべては祖先が遠い星々から移住してくる前のテクノロジーですが、もはや魔法と同義になるつつあるようなSF的ファンタジーです。

 主人公の〈詩女〉ベリンを演じるのは川村万梨阿。懐かしいですねえ。最近はあまりアニメでお見かけしなくなりましたが、今年は『機動戦士ガンダムUC episode 5 黒いユニコーン』にベルトーチカ役で出演されておりましたか。
 監督が永野護で、主演が川村万梨阿。つまり旦那が監督、その嫁が主演というのは時々見かけるパターンですね。
 その上、川村万梨阿は本作のOP主題歌も歌っております。のみならずED主題歌も、挿入歌も川村万梨阿です。しかも三曲とも作詞もこなしておられる。
 ますます本作が家内制手工業の産物であるように感じられますが、これ一作で川村万梨阿を堪能できると思えば、よろしいのではないでしょうか。私は堪能しました。『ガンダムUC』の方は出番が短すぎましたからね。

 平和主義者のベリンは強大な帝国の武装で護衛されての旅を嫌がり、護衛など無用と突っぱねるのだが、帝国の皇子の方もあっさり引き下がることは出来ず、価値観の異なる二人は端から険悪ムード。
 このドナウ帝国のトリハロン皇子を演じるのが佐々木望。川村万梨阿と一緒だと、ついガンダム・シリーズのハサウェイ・ノア役が思い出されてしまいます。
 他に大塚明夫、折笠愛、三木眞一郎、三石琴乃、大谷育江といったベテランが脇を固めております。ナレーションも榊原良子だし、馴染みの声優さんばかりなのが嬉しいデス(これは監督の人脈かな)。

 物語は〈詩女〉の都行(みやこゆき)の道中に起こる幾つかの事件を通して、ウマの合わなかった二人が次第に心を通わせ、信頼し合うようになっていく過程を描いています。ロマンス中心の物語なので、戦闘シーンがごくあっさりなのが残念。
 尺の都合なのでしょうが、主役メカ以外のGTMも見せておきながら(そのパイロットまで紹介しているのに)、見せ場のGTM戦で活躍するのはトリハロン皇子とその愛機〈カイゼリン〉のみとは如何なものか。一応、出撃できない理由はきちんと考えられていますが、紹介までしながら出番なしとは。
 それに戦闘シーンも一回だけですし。
 如何に尺の都合とは云え、どうにも物足りない感じがします。

 その代わり、短い場面でもGTMの描写には相当な気合いを入れています。
 もう効果音からして独特です。「女性の悲鳴に似た駆動音」というのは、かなり変わっていますが、その理由までは説明されません。何故、そんな妙な音を立てるのか。
 大塚明夫が「我が国のGTMの駆動音は──」と説明しているところを見ると、全てのGTMがそうであるのではなく、ドナウ帝国の独自仕様らしいです。多分、設計者である高名な博士の趣味らしいと察せられますが、詳細は不明です(永野監督の美意識は独特ですね)。

 そしてビジュアル的にも、純白の機体に漆黒のアクセントがついた〈カイゼリン〉の機体は美術品のように美しいです。なにやらチカチカと細かい部分で点滅していたり、一部の装甲板が薄くシースルーで透けていたり、動くに従い機体の一部がオレンジ色に輝いたりと、まぁ随分と他のアニメに登場する巨大ロボとは一線を画しております。
 監督入魂のデザインと演出なのは判りますが、起動までのシークェンスに比べて、戦闘が短い。まぁ、巨大ロボットは起動までが見せ場であるとも云えますが。

 刺客として送り込まれた敵GTM二機を難なく撃破して戦闘終了。
 刺客の正体が、惑星連合議会からの回し者であったり、これまた複雑な政治情勢が絡んでいるのが察せられますが、解決には至りません。
 暗殺部隊の監視役である敵キャラがチラ見せ登場するものの、トリハロン王子の手並みを拝見しただけで、あっさりと撤退です。次に戻ってくるのは三千年後だというあたりに、恒星間航行のウラシマ効果を匂わせるSF設定が伺えますが詳細は不明。
 そもそも、〈カーマイン〉を含めた惑星連合なる組織の規模や、ドナウ帝国なる星間帝国の関係もよく判らないままですし。

 ベリンとトリハロンのドラマも、悠久の歴史の一コマ的な扱いで、その後のベリンが歴代〈詩女〉の中でも相当に高い評価を獲得しただの(後世、カーマインの首都はベリンと改名されたそうな)、トリハロンは第三皇子であるにも関わらずドナウ帝国の皇位継承争いに勝利し、帝国中興の祖となっただの、榊原良子さんのナレーションであっさり語られてしまいます。
 皇子はともかく、主人公ベリンがそんなに大人物になるとは本作だけでは判りませんデス。

 そしてエンディングでは、相当の年月が経過した後の〈カーマイン〉が描かれ、トリハロン皇子の子孫と見受けられる騎士達が再び先祖の思い出の地を訪問する──らしい場面でおしまい。
 大河ドラマの設定だけ紹介されたようで、何とも残念。TVシリーズのパイロット版的な作品でした。独立した単独作品としては、短い尺に複雑な設定を詰め込みすぎのように思われます。
 永野護のファンはこれで満足なのでしょうか。


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