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2012年10月19日金曜日

SAFE セイフ

(SAFE)

 ジェイソン・ステイサム主演によるアクション・サスペンス映画デス。云うまでも無く、「よくあるパターン」なB級アクションなのですが、それなりにまとまった佳作でありましょう。
 カーチェイス、銃撃戦、爆発と、必要なものは一通り揃っていますし、そのどれもが水準以上であると思いマス(でも決してA級であると思えないとはどうしたことか)。
 ステイサムは本作では、問題を起こして退職した元刑事の役。素晴らしくテッパンな設定ですね。そうでなくちゃイカン。

 かつては伝説とまで呼ばれたNY最強のデカだったステイサムも、一線を越えて辞職してしまってからは八百長試合のストリートファイターとして糊口を凌ぐ冴えない日々を送っている。あるとき、負けるように指示されていたにも関わらず、軽く一発当てただけで相手がダウンしてしまい(弱すぎるッ)、賭け試合の胴元だったロシア・マフィアに大損させてしまう。
 マフィアの制裁によって愛する妻を失い、孤独に生きるステイサムに対して、更に追い討ちをかけるように、徹底して人間的な接触を奪おうとするマフィアの仕打ちが陰惨です。
 ちょっとでも誰かと関わろうものなら、無関係の人間でも殺してしまう。罪の無いホームレスの男が自分と関わった所為で殺されてしまい、自分が生き続ける限り他人を害してしまうことに嫌気がさしたステイサムはNYの地下鉄で飛び込み自殺を図ろうとする。

 一方、海を隔てた中国に、幼い頃から数字に対して特殊な能力を発揮する少女がいた。どんな複雑な数列でも瞬時に記憶し、決して忘れない。
 この特殊な才能を中華マフィアに目を付けられ、親元から引き離された少女は病弱な母の治療と引き換えに、マフィアの帳簿係となる。マフィアにとっては一切の証拠を残さない「生きた裏帳簿」となった少女の能力は非常に重宝するものだった。
 しかしNYの中華マフィアの拠点は、抗争相手のロシア・マフィアに襲撃され、捕らえられた少女は「ある情報」の開示を迫られる。隙を見て逃走した少女は地下鉄構内の雑踏の中に逃げ込むが──。

 今まさに線路に飛び込もうとするステイサムが、マフィアに追われて逃げる少女を偶然、地下鉄構内で目撃したことから、ステイサムは悪党共から少女を守って戦うことになる。
 敵は中華・ロシア双方のマフィアと、警察内部に巣くう悪徳警官の一団。三つのグループが一人の少女をめぐって争い合うという構図。
 序盤のストーリーが本筋に達する前の展開がなかなか面白く、編集の妙と相まってなかなか印象的でありました。あまりB級ぽくない丁寧な状況説明とも云えます。

 主演となるのはステイサムと少女(キャサリン・チャン)。二人のキャラクターの運命が交錯するまでの流れが、断片的な場面を交互に紹介しながら展開していきます。最初のうちは、接点のまったく無いふたつのストーリーが同時進行していく様に、ちょっと戸惑うかも知れません。
 二人が出会うまでの流れが結構長いのですが、観ている側を退屈させないように編集が頑張っているのが感じられます。時系列も若干操作され、観ている内にパズルのように繋がっていく構成になっているのが巧いです。

 まあ、序盤の展開には疑問を覚える場面も無きにしも非ずですが。
 そもそもタフガイが看板のステイサムに「愛妻を殺されて絶望する図」なんてのはまったく似合いませんデス。どうにも『デス・レース』(2008年)とか『キラー・エリート』(2011年)などで、愛する妻や麗しい彼女とイチャついているシーンには違和感を覚えます。
 一応、本作ではそのあたりは考慮されたのか、奥さん役の女優さんは登場しません。マフィアに殺された死体も、はっきりとは映さない。それは正しい判断でしょう。ラブシーンなどステイサムには不要。回想シーンでも要らんですよね。
 本作では登場したときから一匹狼だし、悪党共から命を張って助けるのはいたいけな少女──父と娘くらいの年齢差がある──なので、本作にイチャラブなシーンはありません。実に清々しいッ。
 出来れば少女役のキャサリン・チャンがもう少し可愛ければ、云うこと無しだったのですが(実はそれ程可愛くない)。

 序盤の展開にもうちょい難癖付けさせてもらえるなら、物語には必要な説明であるとは思いマスが、無抵抗にチンピラ共にいいように嬲られるステイサムと云うのも如何なものか(奥さんを殺されて放心状態なところをボコられる)。
 ここで無抵抗に見せかけて、瞬時に形勢を逆転させ、チンピラ共を全滅させてくれるのかと、かなり期待して観ていたのですが、やられっぱなしか。ちょっと作為的な演出を感じます。
 それに、今から死のうと思っていた男が、ちょっとワルそうな連中を見かけた途端に、自殺と云う選択肢が瞬時に消えて無くなるのが笑えますが(そんなのは気の迷いですヨ!)、そうでなくちゃイカンか。
 むくむくと昔取った杵柄的なデカ魂が頭をもたげてくる様は説明不要ですが、最初からそうしてくれても良かったのに(笑)。

 しかし序盤を過ぎて一旦、流れに乗ってしまえば、あとはもう何の心配も要らないステイサム節が炸裂しまくる安定したアクション展開になります。
 NY市街での激走カーチェイスはなかなか見応え充分と申せましょう。
 それに悪党に一切容赦しないステイサムの態度も素敵デス。端から情けをかける余地など無い連中ですから、ステイサムも最初から殺しまくりです。その所為かR15指定を喰らっていますが、その意気や良し(笑)。
 銃撃戦も出し惜しみ無しです。地下鉄の中でも、高級ホテルのレストランでも、清々しいまでに簡単に銃を抜いて撃ちまくる(主にマフィアの方からですが)。あまりにも銃撃戦が簡単に起きすぎのような気がしますが、そこはB級ですからスルーしましょう。

 監督はボアズ・イェーキン。『タイタンズを忘れない』(2000年)や『アップタウン・ガールズ』(2003年)の監督さんか。あまりよく存じませんでしたが、監督よりも脚本家としての方が通りが良いようです。『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』(2010年)の脚本もこの方ですし。
 本作でもイェーキン監督自らが脚本を担当しておられます。
 また、製作総指揮にはケヴィン・スペイシーの名前が見受けられます。えーと。このケヴィン・スペイシーとは、あのケヴィン・スペイシーなのかしら。同姓同名の別人ではとも思いましたが、確かにアノ──『ユージュアル・サスペクツ』(1995年)や『セブン』(同年)の──ケヴィン・スペイシーでした。
 こんなB級アクションの製作もするのか。何かの間違いでは無いのか(失礼な)。

 共演は中華マフィアのボス役でジェームズ・ホンが出演されています。おお、『ブレードランナー』(1982年)で、レプリカントの目玉を作っていたあの人か。お元気そうで何よりデス。
 対するロシア・マフィアのボスがサンドー・デクシー。こちらはあまり……。
 二つのマフィア組織を手玉にとって上納金をふんだくっている悪徳警官役がロバート・ジョン・バーク。近年でも『リミットレス』(2011年)とか『クロッシング』(2009年)とかに出演されていますが、印象薄いです。脇役が多い所為か。この人の演じた役で一番有名なのは、ひょっとして『ロボコップ3』(1993年)のロボコップ役なのでは……。

 真面目な監督の真摯なアクション演出に相まって、中華マフィアは中国語をネイティブに喋り、それに対してロシア人達もロシア語をペラペラ喋っているという演出がリアルです。
 本作では英語に負けずに、中国語とロシア語も飛び交っております。

 そしてNY市長役でクリス・サランドンも登場です。出番のあまりないゲスト出演に近い扱いですが、お懐かしい。『フライトナイト/恐怖の夜』(2011年)では、コリン・ファレルにあっさり殺されるだけのカメオ出演でしたが、今回はもうちょっとだけ台詞も多いぞ(あまり変わらんか)。

 結局、少女が中華マフィアに暗記させられた複雑怪奇な数列とは、ある金庫の解錠番号であったと推測され、それが中華マフィアの違法カジノ金庫であることが判明する。
 謎の暗号が金庫の番号というのは、あまりにも芸が無い気がしますが、そこはスルーすべきでしょうか。
 少女の安全を担保する為に金庫の中身三〇〇〇万ドルを強奪しようと企むステイサム。
 かつての敵であった悪徳警官一味を巻き込んで、金庫室への襲撃を敢行する。欲に駆られてステイサムに良いようにあしらわれております。

 金庫の襲撃と共に、悪徳警官一味を壊滅させ、更にマフィアや市長に対してこれ以上の手出しは無用だと脅しを掛けるのがステイサムの策であるのは良いのですが……。
 途中で、実は金庫が二つあるという設定も出てきたのに、もう一つの金庫はスルーされてしまいましたですね。

 一方の金庫には違法カジノの現金、もう一方の金庫にはそのカジノに関わった人達の名前のリスト。政財界に重大な影響がとも云われていたのに、片方の中身だけで取引と最終決戦に持ち込んでしまう。尺が足りなかったのか。
 このあたりに設定を生かし切れていない残念感が漂います。そもそもそこまで複雑にするべきではないと思うのデスがねえ。しかも結局はスルーしてしまうのが、やっぱりB級のB級たる所以でしょうか。
 ステイサム節が炸裂して、悪党共を退治しまくりなアクション映画に細かい文句は不要でありますか。
 もうちょっとで傑作B級になれた佳作と云う感じでした。勿論、ステイサムのファンならば観ておくべき作品なのは間違い無しですが。


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