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2012年9月29日土曜日

ボーン・レガシー

(The Bourne Legacy)

 ロバート・ラドラムの『暗殺者』の映像化作品としては、『狙撃者』(1988年)が好きだったので、当初はマット・デイモンのジェイソン・ボーンに違和感を感じておりました。個人的にジェイソン・ボーン役はリチャード・チェンバレンだと思っておりましたので、マット・デイモン主演のシリーズをスルーしておったのです。
 そのうち『ボーン・アイデンティティ』(2002年)に続いて『ボーン・スプレマシー』(2004年)、『ボーン・アルティメイタム』(2007年)と続いたあと、どうやらこれは観ておかねばならぬものらしいと気づき、三作すべてがDVD化されてやっとマラソン視聴したという次第です。観終わったときには、この三部作をスルーしていた己の不明を激しく恥じました(と云うか、もうラドラムの小説の面影がほとんど無いから別物ですね)。

 この三部作は後になるほど尻上がりに調子が良くなっていく希有なシリーズで、今では私も大好きです。特にアクション演出に一切CGを使わず、徹底してリアルであるのがいいです。
 でも他の作品に影響を与えまくり、おかげで近年のスパイ・アクション映画は、どれも皆やたらとリアルな描写に拘るようになってしまって、それはそれで如何なものかと思うのですが。

 さて、そのシリーズの更なる続編を製作するというのは、なかなかハードルの高い仕事です。特に『~スプレマシー』と『~アルティメイタム』のポール・グリーングラス監督が降板するとあっては尚更。マット・デイモンも「監督がグリーングラスじゃないとヤダ」とか云って不参加になってしまいましたしね。
 その所為でか、原作者ラドラム没後に別の作者が書いた小説『ボーン・レガシー』がありますが、こちらが使えなくなったようで。小説版では相変わらずジェイソン・ボーンが主役だし。

 したがいまして本作ではタイトルは同じく『ボーン・レガシー』ですが、新たな主人公が設定され、スピンオフ作品的位置づけになりました。
 新たな主人公アーロン・クロス役にはジェレミー・レナー。『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011年)にも出演し、個人的にはレナー主役でスパイ・アクション映画が観たかった私としては、こちらでも大歓迎デス。しかもこれはこれで続編に続きそうな気配がしますし、いずれマット・デイモンとも共闘してくれるのでは密かに期待しております。
 しかしそれなら『ボーン・レガシー』と云うタイトルも変えればいいのに。〈アーロン・クロス〉シリーズでもイイじゃなイカ。
 とりあえずワンカットだけですがマット・デイモンのカメオ出演(顔写真のみ)もあります。

 本作は『~アルティメイタム』とほぼ同時進行という設定になっており、『~アルティメイタム』のキャラクターも数人登場し、何とか同一シリーズの体裁を保っております。
 スコット・グレンや、アルバート・フィニー、ジョアン・アレンといった皆さんが顔見せしてくれるのは有り難いですが、押し並べて出番が少なく、顔見せ程度なのが残念デス。
 本作でレナーの敵になるのは、初登場のエドワード・ノートン。切れ者のCIA局員として登場し、レナーを追いつめていきます。初登場のくせに並々ならぬ存在感です。

 惜しむらくは、ノートンにアクションの見せ場がないことですかね。『~アルティメイタム』でボーンに暴露された〈トレッドストーン計画〉を始めとするCIAの極秘計画に幕を引くのがノートンの仕事です。すべてを隠蔽し、関係者の口を封じる。
 ほとんどの出番は、作戦指令室にいて指示を出していく場面だけで、現場に出ることはありません。したがって、エドワード・ノートンとジェレミー・レナーが直接対決するという構図にはならず、そこもちょっと残念でした。
 それとも更なる続々編制作の暁には、顔を合わせる機会があるのか。ハルクvsホークアイを是非(ソレは別のハナシですが)。

 実はCIAは極秘計画を同時に幾つも抱えて運用しており、〈トレッドストーン計画〉も氷山の一角に過ぎなかったのです……って、そんなに秘密の計画ばかり抱えてどうするつもりだCIA。
 ここで別の極秘計画〈アウトカム計画〉なるものが明かされます。こちらは〈トレッドストーン計画〉よりも更に過激に、薬物による肉体改造で超人的暗殺者を育成しようと云う計画。
 エージェントには筋力強化と反射神経促進と云う二種類のドラッグを定期的に服用することが義務づけられており、これを怠ると緩慢な死に至る。
 超人エージェントを命令に従わせておく為の措置ですが、実に非人道的な計画です。世間にバレたときのダメージは〈トレッドストーン計画〉の比では無いかも。

 後付け設定ではありますが、がんばって整合性を取ろうとしているのは判ります。
 監督はシリーズを通して脚本を書いていたトニー・ギルロイですから、それなりにツボは押さえているのでしょうが、今まで言及されなかった薬物の登場や、ジェイソン・ボーンにもドラッグが必要だったのではという設定も見受けられ、少しばかり違和感を感じました。
 トニー・ギルロイ監督はジョージ・クルーニー主演の『フィクサー』(2007年)で監督デビューし、即アカデミー賞にノミネートされた人なので、腕は確かなんですけどね(ちなみに『フィクサー』はコーエン兄弟監督の『ノーカントリー』に破れましたが、まぁ相手が悪かったか)。

 ノートンの指示により、活動中の全エージェントは「処分」されることとなり、アラスカでサバイバル訓練中のレナーも命を狙われる。極寒の環境で問答無用に無人機が襲ってくる。ついでに狼までもが襲ってくるあたり、リーアム・ニーソン主演の『凍える太陽』(2012年)と同じです。出来ればもっと団体さんで襲ってきて欲しかったです。
 このときのレナーの咄嗟の機転がなかなか巧く、狼を利用して無人機の追跡をかわすやり方に感心しました(狼の方は堪ったものではないでしょうが)。

 その一方で、エージェント達にドラッグを供給していた研究機関も閉鎖となり、生化学者(レイチェル・ワイズ)も口封じに命を狙われ、間一髪で助け出された彼女はアーロンとともに組織から追われることになる。
 頼みの綱はドラッグへの依存を解消してくれるウィルス薬の投与であるが、薬剤そのものはアメリカ国内で保管されておらず、フィリピンのマニラ市内にある。

 『~アルティメイタム』とほぼ同時進行なドラマですので、ジェレミー・レナーの活動がマット・デイモンと重複しないように計算されているのが判ります。
 ヨーロッパを飛び回っていたボーン(北はモスクワから、南はタンジールまで)に対して、本作ではアーロンは前半をアラスカ、後半でフィリピンに飛びます。今後も続編が制作されるとしたら、〈アーロン・クロス〉シリーズはアジアを主な舞台にしてくれるのでしょうか。
 是非、アーロンには日本にも来て戴きたいものです。

 本作の見所は、前半の「アラスカでの決死のサバイバル」と、後半の「マニラ市内での激烈カーチェイス」でしょう。特にカーチェイスが凄い。
 まず前段として、マニラ市内の狭いスラム街をパルクールしながら追いつ追われつ走り回り、そしてそのままカーチェイスに雪崩れ込んでいく。このあたりはクライマックスでありますので、実にスピーディかつ緊張感溢れる演出です。
 さすがは〈ジェイソン・ボーン〉シリーズの流れを汲む作品と云うべきか。

 実は私、数年前に『~スプレマシー』が〈ワールド・スタント・アワード〉のあらゆる部門にノミネートされていたのを覚えております。ほぼ総ナメ状態でした。「爆発賞」、「炎上賞」、「格闘賞」、「カーチェイス賞」、「落下賞」等々といった、いかにもスタントマンやスタント・コーディネイターを讃える賞に相応しい部門に、『~スプレマシー』が次から次へノミネートされており、さすがはリアルなアクションを売りにしているシリーズだけのことはあると感心しました(そのときはまだ本編を観ていませんでしたが)。
 本作もきっと「カーチェイス賞」の受賞は間違いなしでしょう。ただ過去のシリーズに比べると、格闘がちょっと弱いかなと思うところがあります。
 ジェイソン・ボーンは極力、銃を使用せず、「その場にあるもの」を使って敵を倒す旨を信条としていましたが、アーロン・クロスはちょっと銃に頼り過ぎと思わぬでもないです。その代わり、パルクールの腕前は素晴らしいです。障害物をひょいひょいと飛び越えていくアクションはボーンより上かも知れません。
 若干、アクションに偏りすぎて、キャラクターの掘り下げというか、失われた過去のエピソードが足りないようにも思われますが、〈ジェイソン・ボーン〉三部作も最初の『~アイデンティティ』はこんなものでしたかしら。

 冒頭とエンドクレジットが意図的にシリーズを踏襲する演出になっているのは御愛敬。
 ファースト・シーンが「水面に人が浮かんでいる」ところを水中から見上げる構図。『~アイデンティティ』と同じであり、また『~アルティメイタム』にも通じる構図なので、思わずニヤリとしてしまいます。
 エンドクレジットでもお馴染みの主題歌──モービーの「エクストリーム・ウェイズ」──が流れます。劇伴の方は三部作全てを担当したジョン・パウエルから、ジェームズ・ニュートン・ハワードに変わっておりますが、主題歌だけは変わらずデス。
 何となく、強引に本作も同一シリーズであることを強調しているように感じられ、主人公が違うのだから主題歌も違う曲でいいのではと思ってしまいました。
 「極限の場所での極限の闘い」と云う歌詞のとおりではありますが。




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