2012年8月13日月曜日

トータル・リコール

(TOTAL RECALL)

 フィリップ・K・ディック(以下、PKD)原作の小説が映画化されるのはSF者としては歓迎したいが、これはあの『トータル・リコール』(1990年)のリメイクです。リメイクするほど時が経っているようには感じられないのですが、もう四半世紀近いのか。
 でも昨今は他にも、『遊星からの物体X』(1982年)もリメイク(と云うか前日譚)されるし、『エイリアン』(1979年)もリメイク(と云うか前日譚のようなナニカ)されるし、SF映画が沢山公開されるのは嬉しいのですが、何となく釈然としませんですね。

 かつての旧作はポール・バーホーベン監督、アーノルド・シュワルツネッガー主演と云う「どこがディックなのかよく判らない」アクション満載バイオレンス満載の痛快冒険活劇でした。
 ジェリー・ゴールドスミスのテーマ曲も忘れ難い。
 でもPKD原作でありながら、原作からかなり遠いところにいると思われた旧作ですが、その後に発売されたDVDに収録された監督自身の音声解説を聞いていると、割とディックらしい演出が随所に施されていたと知り、改めてバーホーベンの演出を見直しました。バイオレンスだけの人では無かったか。
 まぁ、考えてみれば旧作の脚本はダン・オバノン(と、ロナルド・シュゼット)ですし。
 ちなみに『ブレードランナー』(1982年)だってそんなに原作に忠実でもないし、一番PKDらしい映画化作品は『スキャナー・ダークリー』(2006年)だと思います(映画化作品すべてを観ているわけではありませぬが)。
 そう云えば『トータル・リコール』はTVシリーズ化もされていましたっけ。一度も観たこと無いのですが、面白かったのかしら。

 旧作では、火星のホテルに精神科医が訪ねてくるくだりが一番好きでしたが、他にも全体が夢なのではと思わせる伏線や、ラストシーンがブラックアウトではなく、ホワイトアウトしていくという描写が「すべてはリコール社のマシーンによって作られた夢だった」と解釈できるようになっていたとか、なかなか興味深い演出でした。今にして思えば。
 現実と虚構が交錯したり、主人公のアイデンティティが揺らぐというのがPKD的描写ですが、実は結構、旧作は忠実だったんですね。

 さて、では本作はどうでしょうか。
 マッチョすぎる主人公から一転、コリン・ファレルを主演にして、何となく主人公の内面描写に重きを置くリメイクになるのかなーと思っていたら、トンデモねー。ある意味、旧作よりもド派手なアクション映画になっていて、ビックリでした。
 そりゃあ、リメイク版の監督を務めるのは『ダイ・ハード4.0』(2007年)のレン・ワイズマンですからね。〈アンダーワールド〉シリーズの監督でもありますし。
 コリン・ファレル自身も、結構立派な胸板&腹筋を披露してくれますし、それなりにマッチョな風貌になっています。
 設定も随分と変更が加えられ、地球と火星を股に掛けた冒険ではなくなり、「化学戦争以後の環境が悪化し、人類の生存が困難になった未来の地球」が舞台となります。物語は全体的に暗いトーンで覆われ、都市は猥雑で閉塞的な感じデス。
 人類の生存は地球上で残った二つの地域──ヨーロッパとオーストラリア──に限定され、支配的なブリテン連邦(UFB)がオーストラリア(コロニー)を弾圧していると云う状況。旧作で云うとオーストラリアが火星にあたるような感じデスね(過去の英豪関係を想起させる必然はあまりないと思いますが)。

 うーむ。PKD的ではありますが、なんか……コレ、どっかで観たことあるような(笑)。
 オーストラリア・コロニーの暗いディストピア的描写(しかもちょっと中華な)が、実に『ブレードランナー』的です。
 一方、UFBの方はと見れば、未来的超高層ビルが建ち並び、磁力浮上する未来カーが高速道路上をビュンビュン飛び交っている。えーと。これは『マイノリティ・リポート』(2002年)か。
 今までのPKD原作映画のいいとこ取りを狙ったように見受けられます。
 主人公はコロニー住まいで、毎日地球の裏側まで通勤しては、人型ロボットの組立に従事する工場労働者。劇中では「シンセティック」と呼ばれるアンドロイドのデザインがカッコいいですが、シンセティックはもっぱら警察活動を行っているので、主人公の行為はコロニー弾圧の手助けをしているようなもの。
 ところで、毎日地球の裏側まで通勤するという交通システムがなかなか笑える代物で、本作に於けるビジュアルの中でも一際光っております。〈フォール〉と呼ばれるビル一棟分くらいある巨大な列車(エレベータ?)は、文字通り地球の中心部に向かって「落下」していくわけで、途中で重力の向きが変わるという芸の細かい描写も見せてくれます。
 まぁ、何故こんな交通システムが必要なのか判りませんが、SF的にハッタリ効かせたビジュアルではあります。

 旧作と同じく、主人公ダグラス・クエイド(コリン・ファレル)は毎晩悪夢にうなされており、美しい妻ローリー(ケイト・ベッキンセール)が居るにも関わらず、見知らぬ女性メリーナ(ジェシカ・ビール)の夢を見ている。世間ではコロニー解放を唱えるレジスタンスによるテロが活発になっていて、UFB代表のコーヘイゲン(ブライアン・クランストン)は、レジスタンスのリーダーであるマサイアス(ビル・ナイ)を名指しで非難し、指名手配していた。
 このあたりの設定は、かなり旧作に忠実です。役名もほぼそのまま。
 特筆すべきは妻ローリー役のケイト・ベッキンセールですね。旧作のシャロン・ストーンに劣らぬ美人妻ですが、鬼嫁度は本作の方が格段に上です。劇中で見せるアクションも素晴らしい。
 このあたりの配役はワイズマン監督の好みもあるのでしょう。〈アンダーワールド〉シリーズでもケイト・ベッキンセールを起用しておりますし(何よりも、今や自分の奥さんですからね)。

 夢の内容が気になるコリンは、架空の夢を売るという宣伝に目を留め、リコール社を訪れる。
 このあたりの展開は旧作の方がしっかりしているように見受けられました。「火星に行きたいが妻に反対され、せめて火星に旅行した夢だけでも買おう」という旧作の流れの方が、「毎晩みる夢が気になってリコール社に」という展開よりも自然に思えます。本作では主人公が最初からコロニーにいることになっているから、ちょっと苦しいですね。
 また、旧作では「一度マシーンにかかったところで拒絶反応が表れる」けれども、本作に於いては「マシーンにかかる前の事前チェックで既に脳に夢が刷り込まれているのが判明する」という展開。旧作の方はここから先はすべて夢の中の出来事であるとも解釈できるのに対して、本作の方は虚構が入り込む余地が無い。
 もうコリンは本当にレジスタンスの闘士だったのに、当局に捕まり、記憶を書き換えられていたのだと云うことになり、現実の中で戦っていく。
 それでも旧作と同じく、「これは全て夢なのだ」と説得されかかる展開が用意されていて、どうにも違和感を感じました。やはり主人公が「一度、ちゃんと意識を失う」場面が無いと信憑性が足りませんです。

 何がどうなっているのか判らぬまま、命を狙われ、逃走するコリン。考えるよりも先に身体の方が反応して相手をブチのめす。格闘シーンも気合いが入っております。
 そしてコリンを追う鬼嫁ケイト(ホントは嫁では無く、監視役だったワケですが)。これがもう旧作よりも遥かにしつこく、どこまでも追ってくる。しかも容赦無し。実に怖い。
 本作では妻ローリーが、旧作でマイケル・アイアンサイドが演じたリクターの役目も果たすことになるのですが、この変更は巧いと思いました。おかげでケイト・ベッキンセールが実に印象的です(だから本作ではリクターがいない)。

 旧作と同じく、身体の中に仕込まれた追跡装置や、検問を突破する為の変装装置といったギミックが登場しますが、若干アレンジされております。さすがにコリン・ファレルの鼻の穴からピンポン球を抜き取るなんぞという場面はギャグにしかなりませんねえ(笑)。
 でも変装装置は旧作の方が見た目のインパクトがあって楽しかったのに(顔がパカパカ割れて開くマスクが好き)、妙にデジタル化されてちょっと残念デス。ちなみに旧作でシュワルツェネッガーが変装したオバチャンが、本作でも登場してくれます。ここはなかなか楽しかったデス。
 他にも、お遊びのシーンとしては、旧作にもあった「乳房が三つある女」も登場します。だから「おっぱいを三つにすれば何でもSFになる」と思っているのか。こーゆーことしてるから『宇宙人ポール』(2011年)でネタにされるのに(笑)。

 旧作には無かった未来的カーチェイスが追加されるなど、アクション描写はさすがに本作の方が見事です。CGを駆使した高速道路での縦横無尽なアクションは、迫力充分。多層構造な未来都市もしっかり描かれ、エレベータが上下だけでなく前後左右にも動くといった設定を取り込んだアクション演出はお見事でした。
 でもカーチェイスはシリアスなアクションなので、旧作のように「車が喋る」ようなことはありませんでしたね。アレで喋ったら『ナイトライダー』になっちゃうか。
 また、アクション描写が多くなった分、レジスタンスのリーダー、マサイアスについては逆に印象が薄くなってしまったのが残念デス。出番もあまりなかったし。
 せっかくビル・ナイを起用しているのに勿体ない。ビル・ナイの腹から、もう一人のビル・ナイが出てきたりするのかなーと期待していたのですが、それは無し(ちぇっ)。
 「本当の自分は何者か。答えは過去では無く、現在にある」と云う台詞は、「記憶喪失の主人公」が登場する映画のお約束的台詞ですねえ。

 ラストはコロニー制圧の為に、UFB側から送り込まれるシンセティック大軍団の侵攻を阻止できるのかという展開になり、旧作の「異星人の惑星改造マシーン」のような大掛かりな仕掛けではなくなりましたが、これはこれで宜しいのではないでしょうか。
 とりあえずコロニーは解放され、ハッピーエンド。それが全面的な解決なのか疑問ではありますが。
 総じてビジュアル面や、アクション描写は本作の方が上ですが、原作にあるPKD的精神は旧作の方が実は濃厚だったりします。一長一短と云うところでしょうか。

 さて、今後もPKD原作の映画化作品は続いていくのでしょうが──既に『アルベマス』が待機中だとか──、個人的には『ユービック』とか『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』なんかを観てみたいのですが、どこかで製作してくれぬものでしょうかね。
 『ブレードランナー2』の企画もどうなっちゃったのかなあ(これはPKDじゃないですケド)。




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