2012年8月24日金曜日

ヘッドハンター

(Hodejegerne)

 今年(2012年)観たノルウェー映画は『トロール・ハンター』(2010年)、『孤島の王』(同年)と来て、本作で三本目となります。まったくノルウェー映画は侮り難い(正確には本作はノルウェー、ドイツ合作ですが)。
 非常によく出来たサスペンス映画でした。ユーモアも随所に散りばめられ、伏線張りまくりの脚本が実に見事です。ミステリ好きにはお薦めの逸品と申せましょう。

 『ミレニアム』シリーズのスタッフが放つ、北欧製サスペンス・スリラー──と云うのが謳い文句でしたが、本作は『ミレニアム/ドラゴン・タトゥーの女』(2009年)と比べても、勝るとも劣らぬ出来映えです。テイストは随分、異なりますが。監督も別人ですし。
 本作の監督はモーテン・ティルダムという方ですが今まで存じませんでした。ノルウェー映画は知らない人ばかりです(汗)。
 それにしてもスウェーデン映画を撮った製作スタッフが、今度はノルウェー映画を撮るんですか。言葉の壁が低いからなんですかね。

 本作もまた原作付でありまして、ジョー・ネスボの小説は日本でも翻訳が出ています。但し本作の原作は未訳。
 翻訳されているのは『コマドリの賭け』(ランダムハウス講談社文庫)という警察小説──主人公の刑事の名を取って〈ハリー・ホーレ〉シリーズというそうな──ですが、CWA賞にノミネートもされているあたり、作者の腕は確かなようです。
 本作も是非、翻訳して戴きたいものです。

 しかしどうにもB級映画好きだったり、マイケル・スレイドの小説が念頭にあったりで、最初に題名を聞いたときは「凄惨な連続猟奇殺人事件を扱ったサスペンス・ミステリ」かと思いましたが、そんなことは全くありません。
 「ヘッドハンター」とは、首刈り殺人鬼のことじゃなく、リクルート業界の転職斡旋業者のことです。いや、こんな注釈つける必要はフツーは無いですね(汗)。

 主人公ロジャー(アクセル・ヘニー)はリクルート業界の優秀なヘッドハンターと云う表の顔と、美術絵画専門の強盗と云う裏の顔を巧みに使い分けている。
 冒頭から主人公自身のナレーションで、泥棒の心得をあれこれ教えられますが、よく口も回る男です。客観的に見て自分が背の低い冴えない風貌であることを熟知しており、それについてもペラペラと喋ってくれます。
 でも見かけが冴えない割に、美人の奥さんと結婚し、立派な邸宅を構えている。この豪勢な暮らしを維持するだけの収入は、正業だけで得られない。したがって泥棒の副収入を生活資金の足しに充てているという次第。

 転職希望者の面接の際に、さりげなく相手の収入ランクや、有名絵画を所蔵しているかを聞き出し、カモを選別しては後日、自宅に盗みに入る。
 勿論、自分一人では出来ないので、警備会社に勤務する相棒がいて、狙った時間に狙った家屋の警備装置を無効化し、短時間で手際よく目的物だけ盗んでコピーとすり替え、相棒が速やかに警備装置のログを消去する。
 しかし相棒への分配と、奥さんの浪費がたたって、盗めども盗めども暮らしは楽にならず、自転車操業状態。美人の妻を心から愛しているが、奥さんが半ば趣味で経営している画廊は万年赤字状態なので、儲けはそこへ消えていく。
 地道に小さく稼ぐのが安全ではあるが、いつか大きなヤマを当てて、それきりヤバい仕事からは足を洗いたい。

 ある日、ロジャーは小型GPSの分野で起業し成功したクラス(ニコライ・コスター=ワルドー)と転職の面接を行う。クラスは大手ライバル企業への転職を目論んでいた。
 時を同じくして奥さんの画廊に絵画の鑑定依頼が舞い込む。依頼主は自分の面接した相手クルス。第二次大戦でナチスに略奪され、行方不明になっていた巨匠ルーベンスの名画が親戚の屋根裏から発見され、その真贋を鑑定してもらいたいと云うのだ。
 これぞまさしく渡りに船。最後の大仕事とばかりに、渋る相棒を説得し、強引にクルスの自宅に忍び込むのだが、そこで発見したのはクルスと妻との不倫の証拠だった……。

 主役のアクセル・ヘニーがイケメンでないのがいいです。今までの出演作は存じませんでしたが──『30アサルト/英国特殊部隊』とか『ナチスが最も恐れた男』と云われましも、劇場未公開のビデオスルー作品ですし(汗)──実力派です。気に入りました。
 見た目がちょっと成長したマコーレ・カルキンに似ているか。いや『スコット・ピルグリムvs邪悪な元カレ軍団』(2010年)のキーラン・カルキンか、『スクリーム4/ネクスト・ジェネレーション』(2011年)のロリー・カルキンか。いずれにしてもカルキン兄弟系な顔立ちですよ。特にちょっと眠そうな目元が似ています。
 アクセル・ヘニーを殺そうと襲ってくる敵役のニコライ・コスター=ワルドーの方が有名ですかね。『ブラックホーク・ダウン』(2001年)にも出演してるし(でもどこに出ていたのか思い出すのも難しいデス)。

 妻の不倫を疑い、疑心暗鬼状態になるロジャー。次いで自宅ガレージの中から、相棒の死体が発見される。どうやら自分の代わりに、車の運転席に仕掛けられた毒薬のトラップに引っかかったらしい。誰がこんな毒薬を仕掛けたのか。愛する妻か?
 まさかクラスと不倫の末に夫が邪魔になり、二人して自分を亡き者にしようと云うのか。
 このあたりから主人公の状況がどんどん悪化していきます。もう坂道を転がり落ちるようですが、ブラックなユーモアが炸裂する演出のお陰で、気の毒ではあるが笑ってしまいます。

 相棒の死体の処理に困って湖に投げ込んだら、毒の量が足りなかったのか息を吹き返した相棒が水面から飛び出してくると云う『13日の金曜日』(1980年)のパロディのような場面もあります。
 しかし相棒が生き返ったはいいが、殺されかけたことで仲間割れが起きて、やっぱり相棒を殺してしまったりして、どんどんグダグタな状況に。
 そんなことをしている間にもクラスが自分の命を狙って殺しにやってくる。逃げても逃げても追ってくる。何故、自分の居所が判ってしまうのか。
 クラスが小型GPSのメーカーの企業家であったことや、経歴を調べた際に元エリート軍人であったことが伏線になっていますが、この程度の伏線は序の口です。

 マッチョな元軍人に対して、自分は頭脳派。正面から戦って勝てる相手ではないので、逃げの一手しか無いわけですが、自分の身体のどこにGPSが仕掛けられたのか判らない。服を全部着替えてもまだ追ってくる。
 中盤の必死の逃避行が緊張感溢れる演出ですが、更にブラックなユーモアがあって笑ってしまいます。

 例えばこんな場面──
 人里離れた山奥に逃げてきたのに、クルスは猟犬まで使って追ってくる。相手の目をくらます為に、山小屋の便所に身を隠す(当然、水洗式じゃ無いですよ)。
 この屋外便所の場面は実にリアルで、ひょっとしてセットじゃなくて本物を使ったのかと見紛うばかりです。実に汚い。
 トイレットペーパーの芯を口にくわえて、ウ●コの海の中にズブズブと沈んでいくロジャー。
 銃を持ったクルスがトイレのドアを開けると誰もいない。便器の底を覗くと、溜まりまくったウ●コの中にトイレットペーパーの芯が半ば埋もれて突き出している。
 背に腹は替えられぬとは云え、こんな水遁の術は──いやウン遁の術か──は絶対に御免被りたいデス。

 その先の逃避行もまたヒドイ状況で、人生最悪のトラブルが次から次へ出来する脚本は、もう笑うしかありません。だってねえ、全身ウ●コまみれで逃げる人は、どんなに必死でも笑うしかないでしょう。
 また、下ネタばかりではなく、絵画窃盗の件や、殺人のこともあって警察を頼ることが出来ない状況と云うのも巧いです。しかしここまで主人公を追い詰めて、どう救済できるのか。
 遂に覚悟を決めるところまで追い詰められるわけですが、どん底まで落ちたところに光明が見える。

 本作はサスペンス・ミステリでありますので、当初の疑惑が真相ではあるまいとは容易に想像できるのですが、主人公が命を狙われる本当の理由が明かされて、初めて序盤からの辻褄がピタリと合うのは名人の技を見ているようでした。
 しかもここから、主人公は逆転するわけですが、すべてが最悪のバッドエンドにしかならない状況から、実に鮮やかに切り返してくれます。冒頭の饒舌なナレーションの中にもちゃんと伏線があります。
 驚異的に見事な脚本でした。ちょっと無理のある物理的なツッコミ処を、人間心理の面からカバーするところが素晴らしいデス。
 観終わって、どこにもツッコミ入れる余地がないです。もう脱帽するしかない。

 既にハリウッド・リメイクも決定したそうですが、リメイクに際して何か新しい変更点や脚色を施しても、改悪にしかならないような気がします。もう素直にオリジナルの脚本を、ただ台詞を英語にしただけで役者に演じてもらうのがよろしいでしょう(出来ればキーラン・カルキン主演だと嬉しいな)。
 いや、いっそアクセル・ヘニー自身に再度、演じてもらうか。
 でもそれならリメイクなんてせずに、ただ本作を英語吹替で上映するだけでいいのでは(笑)。




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