2012年8月23日木曜日

凍える太陽

(THE GREY)

 本作が公開された直後に、その製作者のひとりであるトニー・スコット氏の訃報を知りました。まだそれほどの歳でもあるまいに(第一、兄貴のリドリーだって七〇過ぎて現役監督なのに)、なんと惜しい。飛び降り自殺だと云われておりますが、いたわしいことです。
 謹んで御冥福をお祈り申し上げます。製作準備中と噂のトム・クルーズ主演『トップガン2』が観たかったデス。一番好きな監督作品は『トゥルー・ロマンス』(1993年)でした。

 アラスカの大雪原に飛行機が墜落し、少数の生存者達が過酷な大自然の中で決死のサバイバルを繰り広げる。襲い来る吹雪と獰猛なオオカミの群。
 リドリー&トニーのスコット兄弟が製作を務め、『特攻野郎Aチーム』(2010年)のジョー・カーナハンが監督を務めた、ほぼ野郎共オンリーの映画です。あとは雪と氷とオオカミ。
 色気のカケラもない、実にワイルドかつストイックなサバイバル映画でした。

 しかも全編、風景はアラスカの原野があるのみ。厚い雲に遮られ、寂寥とした雪原には陽が射さず、寒々としたモノトーンの背景が広がるばかり。後半、雪原から森林地帯に物語は移行しますが、それでもやっぱり寒々しいことに違いは無い。
 撮影監督はマサノブ・タカヤナギと云う日本出身の方です。日本ではあまり知られていませんが、その筋では高い評価を得ている撮影監督だそうな。本作でも厳しい環境のロケに挑み、自然光で難しい撮影をやり遂げてくれました。
 また、本作には原作があって、イーアン・マッケンジー・ジェファーズの短編小説に基づき、カーナハン監督と原作者本人が映画用に脚本を書いております。この原作者は他の映画脚本も書くそうで、ケヴィン・ベーコン主演『狼の死刑宣告』(2007年)なんかもこの人によるもの。

 主演は『96時間』(2008年)以降、アクション映画への出演に迷いがなくなったリーアム・ニーソン。カーナハン監督とは『特攻野郎Aチーム』から一緒ですね。馬が合うのかしら。
 共演はフランク・グリロ、ダーモット・マローニー、ジョー・アンダーソン、ジェームズ・バッジ・デール、ノンソー・アノジー……。中には出演作品を観てはいるのに、思い出せない人もいます。印象に残っていませんねえ。あとはTVシリーズの方の出演が多い人もいるし。
 ほぼ無名な俳優ばかり(リーアムを除いて)なので、一人また一人と脱落していく中で、誰が最後まで生き残れるかは判りません。

 北極圏のアラスカで石油掘削が行われている、というのは『だれもがクジラを愛してる。』(2012年)でも描かれておりましたが、本作ではその掘削現場で働く男達が主役です。
 リーアムは石油会社に雇われたハンター(本人は独白で「スナイパーだ」と云っております)。屋外作業を行う作業員がオオカミに襲われないよう、現場周辺を見張り、作業員を狙って襲ってくるオオカミを仕留めるのが仕事(これまたグリーンピースの人からすれば、とんでもないことになるんですかね)。
 ツンドラ地帯での野獣としては、他にも危険な動物としてシロクマなんかも挙げられますが、本作ではオオカミしか描かれません。登場する動物は人間とオオカミのみと云う、実にシンプルな構図です。

 天候も優れないが、リーアムの表情もまた鬱々として優れない。最愛の妻を亡くしたリーアムには、生きる気力が湧いてこないのだった。
 自殺寸前までいって死にきれず、遺書をポケットに入れたまま、契約終了と同時にアンカレジ行きの飛行機に乗って遭難する。悪天候にガタガタ揺れる機体の中で、突然の爆音と共に、頭上に雪原が見える(天井部分が剥離した上に、機体がひっくり返ってる)と云う一瞬の描写が怖ろしい。
 次の瞬間には雪の中で目が覚める。墜落の瞬間は意識が無かった──あるいは記憶が飛んでしまったのか──ので墜落シーンを省略している演出が巧いです。少し離れたところではバラバラになった機体と、雪原に散乱する荷物と人間。ほとんどの乗客は死亡。

 生存者はリーアムを含めて八名。しかし一名は最初から負傷しており、ほどなく失血死。残された七名のサバイバルが始まる。
 しかし最初の晩から死体をむさぼるオオカミを発見し、群のテリトリー内に墜落していることが判明する。動かずに救助を待っていれば、その前にオオカミに襲われて全滅は必至。リーアムは雪原を越えた先に見える森林地帯までの避難を提案する。
 たまたまハンターであり、オオカミの習性に詳しいので自然とリーダーを務めるようになるわけですが、こういう場面になると決まって「ケッ。リーダー気取りかよ」的に逆らう奴が出てくるのもお約束。あんたら、七人しかいないのに協力しあえよ。

 寒冷地での遭難と云うとフランク・マーシャル監督の『生きてこそ』(1993年)がありますが、私はどちらかと云うと、むさ苦しいオヤジばかりの遭難劇と云う点から、ロバート・アルドリッチ監督の『飛べ! フェニックス』(1965年)が思い出されました(『フライト・オブ・フェニックス』(2004年)としてリメイクもされております)。あちらは熱砂の砂漠地帯でしたが、こちらは真逆のツンドラ地帯。
 シチュエーションを変えただけのようにも思えますが、それは最初のうちだけですね。さすがに吹雪の中で飛行機は組み立てられん(いや、それ以前に大破してますし)。でも『飛べ! フェニックス』でも、遭難するのは石油会社の輸送機でしたね。
 この手の物語では極限状態に追いつめられた男達が、反目したり協力したりしながら危機を乗り越えていく。テッパンな展開です。

 大破した機体の中で一晩過ごすと、翌朝には見張りの当番が襲われてオオカミに食い殺されている。火を焚いていたのに一瞬の隙を突いて襲ってくる敵は、相当に賢い動物であると云う描写が怖いです。
 本作でのオオカミはすべて調教した本物か、機械仕掛けの人形を使用しており、あえてCGを廃しています。何カ所かアップになる場面で、ちょっと作り物かなと思える苦しい場面もありますが、本物に包囲される場面の迫力は格別です。

 暗闇の向こうにオオカミの目だけが光っている(それが何十頭もいる)場面の緊張感は堪りません。火を焚いているから近寄ってこないものの、うなり声をあげながら光の届かない距離からこちらを窺っているのが判るというのが恐ろしい。
 他にも、月明かりの中で遠吠えが聞こえると云う場面があります。寒いので登場人物の口からは息が白く立ち上るのですが、オオカミの遠吠えが聞こえた瞬間、彼方にも立ち上る息が見えると云うのがスリリングでした。群れの数は判らないが、連鎖する遠吠えに、あちこちから立ち上る息だけが見える。
 白い息が無数に立ち上るという演出に、直に姿を見せないオオカミ達の存在がリアルに感じられます。

 徹頭徹尾、本作は人間とオオカミの対決という構図になっています。どこまで逃げても追ってくる群れが実に怖ろしい。このあたりの描写はほとんどホラーですね。
 正体不明の殺人鬼とか、モンスターに追われ続けるスリラー映画と、基本的には同じ構造。
 サバイバルではありますが、追われ続けるだけの物語なので、ややもすれば単調な展開に陥りがちです。そこを色々と手を変え品を変え二時間近い尺を保たせる演出はなかなか巧いものです。
 オオカミに食い殺されたり、寒さと疲労で凍死したり、断崖絶壁から落下したり、一人ずつ脱落していく男達の死に様がなかなかバラエティに富んでいます(イヤなバラエティですが)。

 そしてそれぞれにドラマがあり、妻や娘の元に帰ろうと必死になっている。
 リーアムにも過去を語る場面があり、アイルランド系の父親のエピソードが語られます。ロクデナシの親父ではあったが、詩作の才があったと云うのがアイルランド的なんですかね。子供頃から部屋の壁に飾られていた父親の作った詩が紹介されます。
 実はこの詩が、本作のラストに関わってくる内容だったりします。

 冒頭の流れからの予想では、「妻を亡くして遺書までしたためながら死にきれなかった男が、仲間達と共にサバイバルする過程で生きる気力を取り戻していく物語」なのかなぁ──と漠然と考えていたのですが、どうも予想外の方へ展開していきます。
 あまり明るい希望が語られることの無い、殺伐とした展開がずうっと続いていく。七人の男達もどんどん数が減っていく。
 リーアムの他に誰か生き残るのだろうと思っていたら、遂に最後の一人になってしまう。しかもそれで助かるのかと云うと、そうでもない。只一人、生き残ったリーアムが最後に踏み込んだ場所は、今まで自分達が逃れようとしてきたオオカミの群の巣の中だった。

 オオカミのテリトリーから出ていこうとして、実は中心に近づいていくルートを辿っていたという、神も仏も無い展開。どおりでオオカミの群れがいつまでも追いかけてくる筈ですわ。
 遂に群れのボスである大物が、リーアムの前に現れる。堂々たるその体躯は、まさに狼王。
 覚悟を決めたリーアムと狼王が激突するところで物語はエンドです。えー、そんなところで?
 救助も何も来ないまま、そんなエンディングで良いのかと呆気にとられてしまいました。

 確かに「自殺を図った男が生きる力を取り戻す」物語ではあります。狼王と対峙したリーアムの目に絶望の光はカケラも無い。ナイフ一本でも生き延びる気充分。相手を屠る気満々です。
 「最強の敵と戦い、これを倒せたならば、その日に死んでも悔いはなし」──と云う、父親の残した詩が体現されている。
 絶望的な状況下でも決して生きることを諦めない。死を怖れない。誰の為でもない、己の尊厳を賭けて戦う。実に荒々しくも美しい生命賛歌……なんですけどねえ。うーむ。
 あまり救いがあるとも思えぬのですが。そんなツッコミは野暮ですか。実にワイルドでした。
 エンドクレジットの後に死闘の結末がワンカットだけ入ります。ちょっと蛇足ぽいですが。


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