2012年7月5日木曜日

プレイ/獲物

(La proie)

 SF者なので『プレイ 獲物』なんぞと云われると、マイクル・クライトン作のハイテク・スリラー小説──軍用ナノマシンが巻き起こす騒動を描いた作品で、本作とは全くの無関係──を思い起こしてしまいます。邦題はもう少し考えて付けて戴きたいものです。紛らわしいデスわ。原題が “La proie” だからそのまま仏語発音でもよいのでは。
 とは云うものの、よく出来たアクション・サスペンス映画であることに違いはない。フランス映画ですが、これもまたハリウッド・リメイクされたりするのでしょうねえ。

 主人公は、銀行強盗の罪で服役中の囚人フランク(アルベール・デュポンテル)。刑期満了を目前に控え、愛する妻と娘の元に戻れる日を心待ちにしていた。
 だが、先に出所した連続猟奇殺人犯モレル(ステファン・デバク)が、自分の家族を狙っていると知り、居ても立ってもおられず脱獄してしまう。
 警察に追われ、決死の逃走を繰り広げつつ、フランクは殺人鬼モレルに拉致された愛娘の行方を追う。
 警察に追われながらも、相手を追い続けるサスペンス・アクションなので、ハリソン・フォード主演の『逃亡者』(1993年)のような趣です。この手のパターンは人気がありますね。

 監督は『ワン・ミス・コール』(2008年)のエリック・ヴァレット。うーむ。アレは『着信アリ』(2004年)のハリウッドリメイク版で、どうにも面白く無さそう──そもそも元の『着信アリ』からして……──だったので、スルーしておったのですが、ひょっとして大きな間違いだったのかしら。

 本作はフランス映画なので、出演しておられる俳優さんは、当然のことにヨーロッパの俳優さんばかり。イマイチ馴染みが薄いです(汗)。
 主演のアルベール・デュポンテルや、ステファン・デバクも、他所ではあまりお目に掛かったことないです。不勉強だ。
 アルベール・デュポンテルは近年、『PARIS』(2008年)とか、『いのちの戦場/アルジェリア1959』(2007年)に出演しておられる。どれもスルーしてしまっています。『ロング・エンゲージメント』(2004年)くらい観ておけば良かったか(でも『ロング~』は主演じゃないか)。
 一方、ステファーヌ・デバクもまるっきり存じませんでしたが、本作で見せる演技は鳥肌ものです。もう『ラブリーボーン』(2009年)で殺人鬼を演じたスタンリー・トゥッチと同じくらい怖ろしい。人の良さそうな善人面していながら、実は血も凍るようなシリアルキラー。豹変する瞬間の表情が実に巧みでした。

 その他、フランクを追う腕利き刑事が、アリス・タグリオーニ。『逃亡者』で云うところのジェラード警部ですが、女刑事と云うのが実に勇ましい。野郎共を統率し、チームで追跡していく。
 フランス版『トップガン』と宣伝された『ナイト・オブ・ザ・スカイ』(2005年)にも出演されておるそうですが、こちらもスルーでした。

 でも、セルジ・ロペスだけは憶えがありましたよ。
 ロペスは、唯一、主人公の味方になってくれる憲兵の役。「憲兵」と云う字幕に違和感を覚えますが、フランスの警察組織として「国家憲兵隊」と云うのが警察とは別にあるそうな(通常の警察とは活動領域が異なるらしい)。地元の警察とFBIのような関係でしょうか。
 このロペスはギレルモ・デル・トロ監督の『パンズ・ラビリンス』(2006年)で、少女の義父となる残酷なビダル将軍役だった人ですね。つい先日も、『ブラック・ブレッド』(2010年)で、横恋慕する町長役でお見かけしました。今度は善人役だ(笑)。
 でも善人役は、この手の映画では長生き出来ないんですよね。主人公がどんどん窮地に追い詰められて行くには、あまり助けがあってはいけないわけで……。

 本作が『逃亡者』とちょっと違うのは目的が自身の潔白の証明とは関係ない点でしょうか。
 娘を取り戻そうと必死になるフランクですが、犯罪者であることに変わりはないと云うのが、フランス映画的と云うか、ヨーロッパ映画ぽいところでしょうか。二〇〇万ユーロを強奪していることは確かで、特に理由は語られない。
 これがハリウッドならば、主人公をヒーローとして描く為に、何か理由を付けたがるところです。悪い仲間に裏切られた冤罪だとか、やむにやまれず片棒を担いだと云った理由が用意され、観客がより感情移入しやすいように持っていくのだろうなあと考えたりしました。
 そこへ行くとフランス映画の方がドライなんですかね。「愛する者の為に戦う」主人公であれば、犯罪者でもいいのか。「脱獄する」というシチュエーションを描く以上、難しく考えることなく主人公は「最初から犯罪者である」とした方が簡単ですし。
 「愛のために戦う」ことこそが重要なのです(ホンマかい)。

 一応、強盗は強盗ですが、更にその上に殺人容疑がかけられ、そちらの潔白の証明というシチュエーションも用意されてはいます。
 愛娘を拉致して逃げる殺人鬼モレルは、行く先々でまた女性を殺してしまい、その疑いがフランクに向かうように仕向ける。脱獄はニュースで大々的に報道されるから、追われる側も先刻承知というわけで、異常ではあるが頭のキレる頭脳犯です。
 おかげで身に覚えの無い殺人の濡れ衣まで着せられ、警察の追求は厳しくなる一方。このあたりの展開も巧いです。

 しかし、まずは前半の脱獄と逃走劇の構成が見事でした。
 刑務所内での囚人同士の争いや、それをけしかけて楽しむ陰険な看守を描いておいての脱獄なので、主人公が相手をぶちのめす場面も気にせず見ていられます。
 そして妻子の元に戻ってみれば、部屋には誰もおらず、愛娘が大事にしていたぬいぐるみが床に落ちている。これだけで事態を把握するには充分。だがそこに警察が殺到してくる。
 娘を拉致した殺人鬼を追うためにも、まずは警察の追っ手を振り切らねばならない。
 ビルの窓からダイビングし、車の行き交う高速道路を全力疾走し、走る列車の屋根に飛び乗る。アクションてんこ盛りです。
 この逃走のシークエンスで見せるアルベール・デュポンテルが凄いです。ほぼ特殊効果に頼らない体当たりアクションだったそうで、素晴らしい役者魂です。同時に、計算されたアクション演出の緻密さも伺えます。

 ところで、連続猟奇殺人鬼が女の子を誘拐なんぞしてどうするのか、と云うのがちょっと疑問でした。女性を殺さずには居られない変態野郎なのだから、幼い少女と云えど連れ回したりせずに、すぐに殺してしまうのでは。
 この疑問に対する答えは、ちゃんと用意されています。
 実は殺人鬼にも妻(ナターシャ・レニエ)がいた、という設定がありまして。奥さんはよく殺されずに済んでいるなぁ、と思ったら、死体の始末やら何やらと亭主の犯罪を承知の上で手助けしている妻でした。こういうのは内助の功とは云わんか。
 この妻が女の子を気に入って可愛がるので、殺人鬼も少女を殺さずにおいている。まるでペットをあてがうような感覚ですが、早晩、妻が飽きたら殺してしまおうと思っている。
 実は奥さんの方もちょっと精神的に不安定なところが見受けられ、演じているナターシャ・レニエの演技も光ってます。この方はベルギーの女優さんで、『天使が見た夢』(1998年)でカンヌ国際映画祭女優賞、ヨーロッパ映画賞女優賞、セザール賞を受賞しております。

 また、如何に幼い少女であるとは云え、女の子の方も連れ回されている途中で助けのひとつも呼ばないのか、という疑問にも予め答えが用意されています。
 実は少女には言語障害があり、他者とのコミュニケーションに不都合がある。また、ヘタに逃げ出そうものなら殺されてしまうと云うことを理解しているようでもあります。設定上、無言なのでそこは少女の表情や挙動から推測するしかありませんが、子役の女の子(ジャイア・カルタジオーネ)が巧いので、粗は目立ちませんです。
 この少女は最後に一言だけ喋るのですが、これがなかなか印象的です。

 自らも追われ、負傷して満身創痍となりながらも、僅かな手掛かりからモレルを追っていくフランク。
 一方、逃亡者フランクを追い詰めていく女刑事も、釈然としないものを感じていた。
 何度かフランクが包囲網を脱する過程で、直接対峙している現場の担当者としては、連続猟奇殺人の容疑がピンと来ない。むやみに人を殺していく男には見えなかった、と云うのが理由ですが、当然のことに上司の理解は得られない。
 こういう場合の現場の直感と、マスコミ受けしか考えていなさそうな上層部の刑事部長の対立と云う構図もお約束ですね。
 あまりフランス映画らしからぬ感じです。アメリカの刑事ドラマでよく見るパターンと云うか。
 このあたりの展開は、ハリウッドでも仕事しているエリック・ヴァレット監督の感覚でしょうか

 終盤はモレルの潜伏先を突き止めたところへ、警察もやってきたり、モレルが殺した女性の父親が警察の後を追ってきたりと、関係者が集まってくる。クライマックスへ向けての仕込みもしっかりしております。
 伏線もきちんと張っており、女刑事がすべての企みを見抜く演出も巧いです。
 それほど意表を突いた展開にはならないものの、手堅くまとめた秀作であると思います。分からず屋の刑事部長も無能では無かったと云う描写が微笑ましい。

 ただまぁ、やっぱり主人公は犯罪者なので、ああいうラストにせざるを得ないのでしょうか。
 晴れて身の潔白を証明し、娘を取り戻しても、脱獄は脱獄だしねえ。いずれ近い将来にハッピーエンドを迎えるのであろうと、希望を抱かせるラストシーンではありました。


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