2012年6月24日日曜日

一枚のめぐり逢い

(THE LUCKY ONE)

 恋愛小説の巨匠ニコラス・スパークスによる同名ベストセラー小説の映画化です。今のところ(2012年現在)著作十六冊に対して、映画化が七冊か。凄いもんです。
 監督は『アトランティスのこころ』(2001年)とか、『幸せのレシピ』(2007年)のスコット・ヒックス。『シャイン』(1996年)もこの監督ですね。
 主演はザック・エフロンとテイラー・シリング。ザックは〈ハイスクール・ミュージカル〉シリーズでお馴染みですが、テイラー・シリングの方は存じませんでした。本作がメジャー映画デビューであるそうな。

 『親愛なるきみへ』(2010年)もそうでしたが、主人公が兵士であるという設定だと読者の共感を得やすいのでしょうか。だからベストセラーなのか。
 本作のザックもまたイラクからの帰還兵を演じています。海兵隊員という設定も庶民的。
 ザックは役作りに海兵隊でトレーニングしたというだけあって、かなり堂に入った演技でした。髪も刈り込み、ヒゲ面なのもワイルドで、もはや『ハイスクール・ミュージカル』の若造ではありません。除隊後のPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむ様子もちゃんと描かれています。

 だから冒頭のイラクでの戦闘シーンもかなり本格的です。数あるイラク戦争ものとも比肩しうるくらい。この場面だけ抜き出して、『ルート・アイリッシュ』(2010年)や、『グリーン・ゾーン』(同年)の一場面だと云っても通用するくらいです。
 本作ではバグダッドの一般的集合住宅に夜間の強制捜査を敢行する小隊の様子が描かれておりますが、それ自体の是非は問われません。かなり乱暴なことをやっていますが、それを映像化しているのもアメリカ映画だし、制作側の良心が感じられます。

 特に説明は入りませんが、この強制捜査で突入するアパートが最初から廃墟も同然に崩れているのは、恐らくはアメリカの空爆によるもので、そんな廃墟に突入したら一般人が何家庭もまだそこで生活していたと云う描写がリアルです。
 何故にそんな廃墟に突入するのかと云うと、事前に「ここがテロリストのアジトである」という情報を得ていたからなのですが、それもまた敵の罠で、突入した小隊は待ち伏せを喰らって大打撃を被る。
 敵も味方も、そこで暮らしている一般人のことなんぞ歯牙にも掛けない。そもそもどっちが味方か判らんし。つくづく「最大の被害者はイラクの一般市民」であると思います。

 ベタベタな恋愛映画を期待して観に来たカップルは、この序盤のシーンで引いちゃうんじゃないでしょうかね(笑)。
 本作はラブシーンがちょっと濃厚だとの理由で全米公開時にPG13指定を受けたそうですが、こっちの戦闘シーンは問題なしなのか。いや、どっちかと云うと恋愛映画で男女がベタベタするのは当たり前なのであって、むしろこの序盤の方が問題なのでは。
 兵隊さんがバタバタ死んでいくシーンはPG13指定にはならんのか。劇中でも、ザックの親戚の子供達がゲームをしている場面がありますが、これが「戦場での一人称視点シューティングゲーム」で──『メダル・オブ・オナー』あたりですかね──、規制するまでも無くアメリカの子供はそういうのに慣れてるから構わんのか。ええんかいな。

 最初の主人公が置かれた状況が過酷なものだっただけに、後々これがちゃんと効いてくるという演出が巧いです。
 実体験で戦争を経験してしまうと、子供がプレイしているシューティングゲームを見るだけでも耐えられないとか、「自分一人だけが生き残ったことに罪悪感を感じている」という描写もリアルで真摯な演出です。
 それから、くれぐれも眠っている帰還兵の上に飛び乗って脅かしてやろうなんぞと考えてはいけません(あの親戚の少年は肝を冷やしたことでしょう)。

 「ささやかなことで人生は変わる」と云う、主人公の独白のとおり、たった一枚の写真(しかも自分のものでは無い)のおかげで命拾いするというのが劇的です。
 数メートル先に落ちている一枚の写真を拾いに行って命拾い。つい先刻まで立っていた場所で爆発が起きて、戦友達が犠牲になる。
 その後も何度も死線をくぐりながら、自分一人だけが生き延び続ける。写真に写っている女性は守護天使なのか。
 除隊後、ザックはこの写真の女性を探そうとするわけですが、イマドキはインターネットの画像検索が威力を発揮するんですねえ。
 「背景に映っていた灯台」から、場所がニューオリンズらしいと見当を付ける。ネット上には「全米各地の灯台の写真」を載っけた〈灯台マニア〉のサイトがあるというのも、ありそうなハナシです(実際、いるんでしょう)。ネット上には何でもあるのな。

 故郷のコロラドから、ニューオリンズのあるルイジアナまで、徒歩で移動するザック。背嚢ひとつ担いでの一人旅というのが、『ランボー』(1982年)のスタローンみたいです。これが世間一般的な帰還兵のイメージなんですかね。
 また必要以上に喋らない寡黙で孤独な男というのもランボー的です。
 まぁ、ザックは犬と一緒に旅しているので、ランボーほど孤独では無いか。でも道中は色々なことがあったと察せられ、そっちの方がロードムービーとして面白そうな気がします。
 そこから先はニューオリンズの美しい風景の中で物語が進行していきます。湿地の多い原生林の背景がいい感じです。朝の散歩をこんなところで出来たら素晴らしいでしょう。樹上にツリーハウスを作って、子供が隠れ場所と云うか、秘密基地にしているという描写もあります。さすがニューオリンズ。

 やっと探し当てた女性(これがテイラー・シリング)は、郊外でケンネルを経営していた。最初は命を救ってくれた礼だけ述べて辞するつもりだったのに、ひょんなことから職探しであると勘違いされ、そのままズルズルと居着いてしまう。恋愛ドラマにありがちな黄金のパターン。
 ザックが写真のことをいつ告白するのか、というのが気になるところですね。当然、そう簡単にはいかないのですが。

 居着いているうちに、色々とテイラーの事情も判ってくる。写真の本来の持ち主が、テイラーの兄であったこと。既に戦死していること。テイラーがバツイチのシングルマザーであること(ココ重要)。
 離婚した亭主は地元の名士の息子で、保安官で、今でも未練タラタラで、どこの馬の骨とも知れない風来坊がテイラーと親しくしているのが気にくわない。荒っぽい職務質問で嫌がらせをしてくれます。
 もう、絵に描いたような三角関係と云うか、直球ど真ん中な設定に、ちょっと笑ってしまいました。さすがベストセラー。衒い無く王道を突き進んでくれます。

 この嫉妬メラメラの元DV亭主役がジェイ・R・ファーガソン。主にTVドラマに出ている役者さんですが、『キラー・インサイド・ミー』(2010年)にも出演しておられる。
 脳みそ筋肉なマッチョ野郎を、実に憎々しげに演じてくれるのが個人的にツボでした。
 このまま「嫌みな保安官と寡黙な帰還兵の物語」にして『ランボー』路線に転向してくれても良かったのですが(笑)。

 ケンネルの真の経営者であるのがテイラーのお祖母ちゃん。演じているのはブライス・ダナー。話の判るナイスなお祖母ちゃんで、風来坊ザックの雇用を即決したり、離婚が原因で恋に臆病になったテイラーを見守り、その背中を押してくれたりします。
 これまたこの手の物語にありがちな、主役のサポート役ですね。

 そしてテイラーの息子役に、ライリー・トーマス・スチュワートと云う子役の少年が抜擢されております。ジョディ・フォスター監督・主演の『それでも、愛している』(2011年)で、メル・ギブソンの息子役でデビューしたそうですが、この子が巧い。
 チェスは大人顔負けの腕前で、ザックは手も足も出ない。また、ヴァイオリンの練習をするなど芸術家肌な一面があるくせに、母と離婚したマッチョ親父にも愛されようと、無理なアウトドア・スポーツを頑張る姿が健気です。

 男手の足りない店の助っ人に雇われた寡黙な風来坊が、お祖母ちゃんに気に入られ、次に少年と仲良くなり、次第に外堀を埋めていく図になるのが微笑ましい。
 しかし写真の件を打ち明ける機会を逸し続けているので、ますます打ち明け辛くなる。これにはザックの寡黙で控え目な性格も一因しているのですが。
 「何故、この街に来たの?」と訊かれて、「あなたを探して」とだけ答えるザック。
 確かにその通り。嘘では無いが、女性は勘違いするのが判らんのか(笑)。

 ザックとテイラーの仲が進展するにつれ、元DV亭主の嫌がらせがエスカレートするのもお約束。そして写真の秘密を元亭主に感付かれてしまい、最悪の嫌がらせの形でバラされる。
 最初に自分から打ち明けていれば、どうと云うことも無かったのに。もはや「ザックを生き延びさせる為に、兄は戦死したのか」的な印象を抱いてしまっては、破局は避けられない。
 そしてザックがニューオリンズから去ろうとする前日の晩に嵐が到来し、事件が──。
 まぁ、元DV亭主も愚かではありますが、彼なりに息子を愛していたりする面は評価できます。最期はちょっと可哀想な結末でした。

 色々ありましてラストの大団円に雪崩れ込む。冒頭のリアルな戦闘シーンも実はちゃんと意味のある伏線だったというのもお見事です。
 「光にたどり着くには深い闇を潜らねばならない」と云うのも、主人公の独白にありますが、まさにそのとおりです。
 でも個人的には、悲恋のまま終わっても良かったと思うのですがねえ。
 いや、だって。あのあまりにもハッピーすぎるラストシーンがちょっと……。
 やはり女性受けするんですかね。風来坊が黙って去っていくラストの方がカッコいいと思うのは、ヒネた男だけデスか。




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