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2012年5月23日水曜日

ザ・マペッツ

(THE MUPPETS)

 昔、NHK教育で放送されていた『セサミストリート』は日本語吹替なしのまま放送されており、それでも結構、何を云っているのか判ったりしたもので、後年になってカーミットの声に吹替が付いて(真殿光昭)、ちょっと違和感を感じたものです。
 でも『マペット・ショー』や『マペット放送局』は最初から吹替で観ていたから違和感なしね。でもやっぱりカーミットだけは日本語で喋るのが、ちょっと奇妙な感じがしたものです。例えそれが山田康雄の名吹替であったとしても(逆に、フォジーは神山卓三の声で刷り込まれておるのですが……)。

 マペットの映画は今まで全部ビデオスルーだったと思いますが、いきなり七作目にして劇場公開です。主題歌が今年(第84回・2012年)のアカデミー賞の主題歌賞を受賞したからか。
 吹替版の上映は無く、字幕版のみであったので、私は本作でカーミットの生の声を久々に聞くことが出来ました(DVDでリリースされている数作は未見なので)。
 いや、その前にWOWOWで放送されたアカデミー授賞式典にも、ちゃんとカーミットとミス・ピギーが招待されていたのを見たか。
 とにかく、かつてジム・ヘンソンが操っていた頃と、まったく変わらないように見受けられるので実に嬉しいデス。二代目はスティーヴ・ウィットマイアと云う方だそうですが、ジム・ヘンソンの声に生き写しですね。ジムが亡くなった一九九〇年からずっと二代目カーミットを演じているのだから、今更こんなことを云うのもナンですが。

 やはり何を云うにしても懐かしい。
 登場するマペット達も『マペット・ショー』の頃からお変わりないようで、大変嬉しいデス。カーミットを始めとして、ミス・ピギーも、フォジーも、ゴンゾもあの頃のままやね(当たり前か)。ウォルドーフとスタトラーの爺さんコンビもちゃんと登場してくれる。
 総じて本作は『マペット・ショー』と『マペット放送局』をそのまま劇場版にしたようなものです。
 実に楽しいミュージカル・コメディでした。

 アメリカのとある田舎町「スモール・タウン」に、兄ウォルターと弟ゲイリーという仲の良い二人の兄弟が住んでいた。この兄弟、ちょっと変わったところがあって、ゲイリーは普通の少年だったが、ウォルターは人間ではなくマペットだった……。
 何故、兄弟で片方がマペットなのか。一体、両親はどんな人なのか。根本的なところは完璧にスルーしております。そもそも両親は登場しないし。強引な設定が実に清々しい。

 子供時代はまだ良かったが、成長していくに連れ、兄と弟の差は開く一方(主に身長が)。劣等感に苛まれるウォルターだったが、ある日TVで『マペット・ショー』を知り、人生が一変する。
 「ボクと同じ人たちがいる!」
 かくして熱烈な視聴者となり、いつかカリフォルニアにあるというマペット・スタジオとマペット劇場に行くことを夢見るウォルターであった。

 そして月日は流れ、弟ゲイリー(ジェイソン・シーゲル)も三〇代。恋人(エイミー・アダムス)とはもう十年越しの付き合い。交際十周年の記念としてカリフォルニアへの旅行を企画するゲイリー。ついにプロポーズのときが来たか。
 しかし旅行にはウォルターも同行し、憧れのマペット達に会える日を心待ちにしていたのだった。二人きりの旅行にならないことにムクれるエイミーが可愛いです。

 だが『マペット・ショー』は放送終了から長い年月が経過しており、マペット達は世間から忘れ去られ、もはやスタジオや劇場は廃墟も同然。
 しかもスタジオには「ここをマペット博物館にしたい」と申し出た石油王リッチマン(クリス・クーパーですよ!)による買収計画が進行していた。実はスタジオの地下には石油が埋蔵されており、博物館なんてのはデマカセで、買収後速やかに取り壊すことが決定していたのだった。
 この契約を覆す方法はただひとつ。期日までに一〇〇〇万ドルを返済すること。
 かくして悪党リッチマンの陰謀からマペットの殿堂を守るべく、ウォルターはカーミット達と一緒に、かつてのショーの仲間達を探す旅に出る。

 主演のジェイソン・シーゲルは『ガリバー旅行記』(2010年)で、ジャック・ブラックの友人となるリリパット小人として登場しておりました。
 エイミー・アダムスは『魔法にかけられて』(2007年)でジゼル姫だった人ですね。『ダウト/あるカトリック学校で』(2008年)や『ザ・ファイター』(2010年)のシリアス演技もよろしいが、やはり歌って踊るのもお見事デス。
 そして悪役で登場するクリス・クーパーまでがちゃんと歌ってくれるのが素晴らしい。『カンパニー・メン』(2010年)でリストラされた悲哀の中年男が、今度はマペット達としっかり悪党の歌を歌ってくれますよ(しかもかなり楽しそうだ)。芸達者な人です。

 加えて、カメオ出演する有名俳優の皆さんの顔触れがスゴすぎです。元から『マペット・ショー』は毎回、豪華なゲストが楽しい番組でしたが、劇場版だとチョイ役が豪華ですね。
 冒頭のスモール・タウンの住人役で、ウィリー・ネルソンとかミッキー・ルーニーが顔見せしてくれます。
 廃墟同然のマペット・スタジオのガイド役がアラン・アーキン(まるでヤル気ナシの演技が素晴らしい)。
 ミス・ピギーの付き人というか秘書の役でエミリー・ブラントもいますよ。
 また本人役で、様々な俳優やミュージシャンが登場してくれますが、極めつけはウーピー・ゴールドバーグ。
 そして「大物有名人」役のジャック・ブラック。この人はもはやカメオ出演の域を超えております。全然、カメオじゃないです。
 どーでもいいけど、ジェイソン・シーゲルにジャック・ブラック、エミリー・ブラントですか。『ガリバー旅行記』とかなりカブってますね。

 ストーリーはもうお約束というか、テッパンな展開ですよ。『ブルース・ブラザース』式ね。
 つぶれかけた劇場を救う為に、期日までに大金を稼ぐ手段としてショーを企画し、昔の仲間を集めて回る。ある者は場末の酒場で冴えない日々を送っている。またある者は起業し成功を収めている。またまたある者は精神疾患治療のサナトリウムで別人のような生活を送っていた。
 これらを片っ端からかき集め、一座の再結成を目指していく過程で、ウォルターも仲間として認められ一座に迎えられる。

 しかし最後のメンバー、一座の花形だったミス・ピギーだけは簡単に首を縦に振ってくれない。実はかつてカーミットと恋仲になった挙げ句、二人の関係は破局していたのだった。
 今でもカーミットを愛しているが、いまいちカーミットが踏み込んでくれないことがもどかしい。
 「ぼくらには君が必要なんだって、ナニよ。どうして僕には必要なんだって云ってくれないの!」
 気が強いくせに男からのリードを待っているというのが複雑な女心ですね(ブタですが)。
 でも最後には「ふん。私が居なけりゃ始まらないでしょ」と駆けつけてくれる。

 カーミットとミス・ピギーのヨリが戻るのと平行して、人間のカップルの仲も進展していきます。
 マペットにかまけて自分のことを忘れているジェイソンにエイミーが癇癪を起こす。そもそもこの旅行はエイミーの為だったのに、当初の目的をすっかり忘れていた迂闊な自分を呪うジェイソン。兄のことも心配だが、やはり自分の幸せのことも考えねば。
 長年、共に生きてきた兄弟にも、とうとう袂を分かつ日がやってくる。

 マペットとして生きていく道を選択した兄と、人としての道を歩む弟がデュエットするのが本作の主題歌「人かマペットか (“Man or Muppet”)」。ギャグのようでシリアスな歌です。
 曲の方はしっとりとしたバラードになっています。
 ここで二台のピアノを挟んで兄弟が歌うわけですが、双方に人間バージョンとマペット・バージョンがいるのがなかなか面白いデス。
 片方のピアノにはジェイソン・シーゲルと、ジェイソン・シーゲルによく似たマペット。もう片方のピアノにはウォルターと、もしウォルターが人間だったならこうだったであろう人物が座って、「四人でピアノを弾いて歌う」と云う趣向になっています。
 人間バージョンのウォルターを演じているのは、カメオ出演のジム・パーソンズ。

 同時にアカデミー賞の主題歌賞にノミネートされていたアニメ映画『ブルー 初めての空へ』の主題歌 “Real in Rio” の方が賑やかで楽しい歌曲なので、てっきりそっちが受賞するものだと思っておりましたが、予想が外れました。
 余談ですが『ブルー 初めての空へ』は何故に長編アニメーション賞の方にはノミネートされなかったのか解せませぬ。『カンフー・パンダ2』や『ランゴ』と並べても遜色ない出来の筈なのに、劇場公開までスルーされてしまうとは不遇すぎます。

 すったもんだの末にショーの開催にまで漕ぎ着けるが、悪党リッチマンがそれを黙って見ている筈が無く、悪質な妨害工作を仕掛けてくる。
 果たしてショーは無事に開催されるのか。一〇〇〇万ドルは返済できるのか──というワケですが、基本は明るく楽しいミュージカルですのでハッピーエンドはお約束。
 エンディングで懐かしの「マナマナの歌」が流れるのがまた楽しい。皆、マペットが大好きなんですね。




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