2012年5月3日木曜日

ももへの手紙

 

 『人狼 JIN-ROH』(2000年)の沖浦啓之監督によるファンタジーな長編アニメーションです。これが監督二作目になるそうですが、きちんとまとまったイイ感じの物語でした(少し地味でしょうか)。
 本作では沖浦監督は監督のみならず、原案、脚本、絵コンテまで担当しております。かなり思い入れのある個人的な作品という感じデスね。物語の舞台も、監督のルーツである広島の鞆の浦周辺をモデルにした瀬戸内海のとある島になっています。

 父を亡くした少女もも(小学六年生)が母と共に、母の実家である瀬戸内海の島へ転居してくるところから始まります。母の方は懐かしい風景に、親しい親戚や旧友との再会が待っている島での生活に気分が高揚しているようですが、娘の方はそうはいかん。
 住み慣れた東京を離れ、古臭い農家に──実家はミカン農家をしている──これから住むのだと云われても、すぐには適応できない。夏休み中ですることもなく、憂鬱になると云うのはよく判ります。

 島の子供達ともなかなか打ち解けることが出来ないのに、母は新生活に向けて着々と準備を始めており、どうにも一人取り残された気分。
 おまけに亡き父との最後の思い出は最悪で、仕事で忙しい父に暴言を吐いてしまい、仲直りできないままに父が事故に遭ってしまったのだった。そして遺品の整理中に発見された書きかけの便箋には、「ももへ」とだけ遺されており、これがまた後悔の念にかられる原因になっていた。
 父は手紙に何と書きたかったのか。

 そんなとき、ももは自分以外には見えない不思議な影のような存在に気付く。次第にソレはリアルに感じられていき、遂に三匹の妖怪となって姿を現した。
 イワ、カワ、マメと名乗る三匹の妖怪は「自分達はかつて世を騒がせた末に、菅原道真によって退治された物の怪である」と自己紹介するのだが……。

 物語が「妖怪と女の子の話」なので、ぶっちゃけプロダクションI.Gが製作した『となりのトトロ』(1988年)のような趣もありますが、妖怪達のキャラクターがなかなかトボけていて、良い味を出しております。
 しかしどちらかと云うと、個人的には『となりのトトロ』と云うよりも、三浦哲郎の『ユタとふしぎな仲間たち』の方が強く思い起こされます。その昔、小説を読むよりも、NHK少年ドラマシリーズで見たきりなのですが、誰かリメイクしてくれないものか(劇団四季がミュージカル化もしたそうですが、見ておりません)。
 本作の「都会育ちの主人公が地方ローカル色全開な舞台で不思議な存在と交流する」と云うフォーマットが、まさに『ユタと~』のまんま。
 タイトルを『ももとふしぎな仲間たち』にしても全く違和感なし。

 主人公のももの声は美山加恋。ももの母のいく子役に優香。
 イワ役が西田敏行、カワ役が山寺宏一、マメ役がチョー。
 アニメの声優にタレントや有名俳優を起用するのはあまり好きでは無いのですが、本作は割と巧くいっている方でしょうか。優香は母親役として違和感ありませんし、ももの声にもすぐに馴染めました。
 妖怪達の方も、カワとマメが声優としても大ベテランなので、イワが浮いてしまうかと思われましたが、そんなこと全然ありませんでしたね。さすがは西田敏行。

 人間のキャラが八頭身のリアルな作画で、妖怪の方が相当にデフォルメされているのが可笑しいです。特にイワの表情がさっぱり変化しないのが、西田敏行の演技と相俟って笑いを誘います。
 特にワケの判らん珍妙な儀式を大真面目に執り行う様子が楽しいです。
 それから背景の美術が実に丁寧で美しい。実在の街をモデルにしているだけあって実にリアルな感じがしました。
 古い民家の間取りや座敷の背景もノスタルジックです。

 ところで三匹の妖怪が、実は妖怪では無いと云うのが、本作一番の仕掛けでしょうか。
 冒頭から妖怪ではないらしいと云う描写があるので、イワ達がももには正体を偽っているというのが観ている側には察せられます。

 最初、三匹は空から落ちてきた水滴のような不定形の生物(のようなもの)として登場する。
 民家の屋根裏を案内してくれた親戚のおばちゃんが、子供の頃に妖怪を見たことがあるというエピソードを披露し、屋根裏にあった古い妖怪絵巻のような古文書を見せてくれる。そこにイワとカワとマメが描かれているわけで、水滴状の生物はその後に、古文書の絵を借りて姿を現すという展開。
 妖怪の姿を取ってはいるが、ナニか別のものらしいと云うのが観ている側には判る。

 目的を隠しながら母娘につきまとい、様子を観察しているのが、なかなかに怪しい。
 とは云え、本来の目的そっちのけでミカン畑から大量にミカンをくすねてきたり、商店から食料品をかっぱらってきたりもします。姿が見えないけど空腹にはなるようで、ももから盗みを咎められたりしている。
 このあたりの、本来の目的を遂行するには、あまりにもマヌケと云うべき三馬鹿トリオの滑稽な様子が楽しくもあり、またそれで大丈夫なのかと心配にもなります。

 ファンタジーな物語の筈ですが、妙なところで理屈ぽい──SFぽいと云うのか──部分が、ちょっと気になりました。
 妖怪のフリをしているが、実はそうでは無い存在。実体を持つ異星人かナニかのようであり、何者かから任務を与えられている。任務の内容は母娘の観察。そして母と娘の様子を報告書に書いて提出することを義務づけられている。
 その一方で、書いた報告書は相当に杜撰で──「ももは大丈夫」だけかよ──、報告書の送信は珍妙な踊りを伴う儀式だったりする。
 このミスマッチな感覚を楽しめない人には違和感があるのでは……。

 明らかになった三匹の目的は、母と娘の安否を確認し、「ソラ」(霊界なのかどうかはよく判りませぬが)に報告することだった。亡くなった人の霊魂が「ソラ」に到達し、自分で愛する者の見守りを行えるようになるまで、代理で見守り、対象者の状況を報告するのが「見守り組」の任務である。

 どうやら、あの世も相当にシステム化されていると云うか、組織だった運用が行われていることが察せられます。
 しかしそれならそれで、時代錯誤的な妖怪ぽい行動はあまりそぐわないのではないかと思われるのですが。
 別に主人公の父だけが特別ではないし、事故で亡くなる人は相当数いるわけだから、「見守り組」も常時、あちこちに派遣されていなければならないでしょう。
 すると世間知らずの妖怪のフリをするよりも、「ルーチンワークに疲れたお役人」という風情になるのではないかと思ってしまうのですが、そんなツッコミは野暮と云うものでしょうか。

 しかし三馬鹿トリオは妖怪ではないが、本物の妖怪達はちゃんといるのです。こちらの方は本物の物の怪で、自然界に存在する精霊と云った趣。『もののけ姫』(1997年)のコダマに似ている感じです。
 三馬鹿の一人マメは何気に地元の妖怪達と交流している。
 これがクライマックスでワンサカ登場するシーンはなかなか壮観です。

 母と娘の気持ちのすれ違いから、今度は母とケンカしてしまい、そのまま母は喘息の発作を起こして倒れてしまう(持病についてはちゃんと伏線がある)。
 折しも瀬戸内には大型台風が接近中でフェリーは欠航、医者を呼ぶ術はない。
 母と仲違いしたまま、今度は母の命が──と云うところで、三馬鹿トリオと一緒に島の物の怪が総動員で、嵐の中をももを本土まで送り届けるのが怒濤のクライマックス。

 嵐が過ぎ去り、母も一命を取り留め、母娘の関係も修復されたところで、盆に行われる島の伝統行事のお祭りとなる。死者の魂を弔って灯籠や供え物を乗せた船を海に流すと云うのが、日本の行事らしくていい感じデス。
 そして本当に届く父からの手紙。文面はももにしか読めないが、母にもちゃんと伝わり信じてもらえる。
 故人や御先祖様はいつでも自分達を見守っているのだと云う、実にハートウォーミングなエンディングでした。

 窪田ミナの音楽と、原由子の歌う主題歌「ウルワシマホロバ~美しき場所~」もなかなか聴きものです。




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