2012年5月17日木曜日

ロボット

(Enthiran)

 久々にマサラ・ムービーを観に行きました。一頃、ブームになりましたが、いつの間にやらまた公開本数が減ってしまって、あれは一過性のものだったのかと寂しく感じておりましたが、またあのラジニカーント主演の映画が公開されると聞いて、楽しみにしておりました。
 『ムトゥ/踊るマハラジャ』(1995年)は今でも大好きです。歌って踊って、その上に血湧き肉躍る展開。チープな特撮も味わい深い。
 開巻早々に堂々と主演俳優を「スーパースター」とクレジットする姿勢も清々しすぎる。

 本作は私が久々に観たマサラ・ムービーですが、いつの間にやら物凄い進化を遂げていたのでタマゲました。歌と踊りは前から凄かったが、遂にCG技術の導入でハリウッドに負けないスペクタクルな場面まで手に入れてしまいました。インド映画はとうの昔に邦画を超えておりますね。
 そして相変わらずラジニカーントのクレジットには「スーパースター」という枕詞が入る。これはお約束か。実に嬉しい。
 本作のCGを駆使したオープニングは、かつてのマサラ・ムービーに漂っていたチープ感なんぞ、まったく感じられません。おまけにインドの映画会社のロゴもやたらと派手で、のっけからテンション高いです。
 しかしタミル語のクレジットはチンプンカンプンだなあ。

 本作の監督は、『ジーンズ/世界は2人のために』(1998年)のシャンカール。
 ラジニカーントと共演するヒロインは『ジーンズ』にも出演されていたアイシュワリヤー・ラーイ。女優で、モデルで、一九九四年のミス・ワールドとな。大きな瞳が印象的です。

 ラジニカーント自身もまったくお変わりないようで、大変嬉しいデス。が、あまりにも『ムトゥ』の頃と変わりが無い。歳を取らないインドの秘術でも体得したのか、はたまた本当にロボットなのか。
 『ムトゥ』の頃でさえ四〇歳代だったのだから、本作ではもう還暦を迎えている筈では。ちょっと調べると、素顔の方はやはりそれなりにお年を召しておられます。
 そこをメイクで若作りしてラブロマンスの主演を張っても違和感なしとは。恐れ入りました。ダンスの振付もキレまくり。まったく衰えを感じさせません。
 特に今回は音楽が電子的なラップ・ミュージックが多いのですが、いやぁ若いなあ。さすがスーパースターですわ。

 音楽は『ムトゥ』のときと同じく、A.R.ラフマーン。私が観るマサラ・ムービーは大抵、この人が音楽ですよ。
 のみならず、ダニー・ボイル監督の『スラムドッグ$ミリオネア』(2008年)もそうでした(これもマサラ・ムービーだよなあ)。『127時間』(2010年)もか。
 今回もまたノリノリの楽曲をガンガン流してくれます。

 天才工学者バシーガラン博士(ラジニカーント)が、完成させた高性能ロボット(これもラジニカーントの一人二役)──アンドロイドと云っても良い──はチッティと名付けられ、学習の末に感情を獲得するが、博士の恋人サナ(アイシュワリヤー)に恋をしてしまう。
 すったもんだの三角関係がこじれまくった挙げ句、チッティはサナに失恋した上、怒った博士に廃棄処分にされてしまう。だが悪のライバル、ボラ博士はチッティの残骸を回収し、軍用兵器として売り込む為に強力な殺人兵器にして甦らせてしまった。
 悪の心を植え付けられたチッティは、サナを我が物にする為にどんどん暴走していく。サナを誘拐し、遂にはボラ博士すら殺害し、自分のレプリカを大量に製造して軍団を作り上げてしまうのだった。

 いやはや、定番のロボットSF的展開です。お約束がテンコ盛りですが、そこが楽しい。
 ロボットが感情を獲得する過程に、「落雷のショック」がダメ押しになるという展開が入っていて笑ってしまいました。
 序盤のいかにもロボットなラジニカーントの演技も楽しい。アシモフの〈三原則〉にもちゃんと言及します。

 ところで本作はインドの映画なので、随所にインドっぽいところが見受けられるのですが、ロボットに対する考え方には意表を突かれました。
 バシーガラン博士はロボットで金儲けしようとは考えない。それはいい。でも第一に「軍に納品しよう」と考えているのが意外でした。軍に売りつけるのではなく、無償で提供するからロボット兵士として制式採用して下さいというスタンス。
 ロボット兵の採用により、人間の兵士が戦わなくて済むようになる。それこそが人道的な使い途であると云う信念。だから「敢えてアシモフの〈三原則〉はインプットしておりません」と云い切る。

 うーむ。この考えは意外でした。
 確かにインドの若者が戦場で命を落とすことは無くなるでしょうが、相手の国のことは考えなくていいのかしら。その上、敵もロボット兵士を投入すれば、戦いはエスカレートするだけなのではと思えるのですが、そこまでは考えていないようだし。これがインド的愛国者の姿なのか。
 悪のボーラ博士も軍への売り込みを企画しますが、こちらは金儲けも企んでいる。あんまり大した違いは無いように思うのデスけどねえ……。

 他にも、マンションの火災現場からロボットが娘さんを救出するシチュエーションが興味深い。
 入浴中に炎に迫られ、浴室から逃げられない娘さんを、ロボットが全裸のまま救出する。人命救助最優先なので、尤もな行動だと思われるのに、これが非難囂々。未婚の若い娘の肌を晒すとは何事かと云うワケで、命が助かったことを誰も誉めない。博士もロボットを叱りつける。

 ちょっと露出が大きいくらい構わないと思うのデスが、インド的には許されない行為らしい。しかも映像上、娘さんの身体には巨大なモザイクがかけられている。
 全裸と云ってもモロに映しているわけでは無いし、明らかに日本やアメリカではOKな程度の露出なのに、インドでは許されないらしい。あの程度の露出にもボカシを入れねばならぬとは、意外でした(やはり宗教的な理由からか)。

 未婚女性の肌の露出に対するタブーが感じられる場面は他にもあって、ヒロインが列車の中でゴロツキ共に絡まれる場面があります。
 物理的に性的な暴行するワケではなく、ヒロインの服をビリビリにひん剥いて、それを寄ってたかってケータイで撮影してやろうという趣向。恥ずかしいと云えば恥ずかしいことですが、それがもう今にも死にそうなピンチであるかのように描かれています。うーむ。そんなことされたら未婚女性はインドでは生きていけないのか。
 お約束通り、間一髪でロボットが駆けつけてゴロツキ共をやっつけるワケですが。

 この列車内のアクションはなかなか見応えあります。CGの効果もよく出来ている。
 どうでもいいことですが、インドの列車にはドアが付いていないのが当たり前なのか。走行中でも乗り降り自由になっていて、なかなかワイルドな列車でした(笑)。

 本作はSFアクション映画です。でもドラマが一定時間経過すると、無理矢理に歌と踊りが挿入されます。そこはもうマサラ・ムービーなのだから仕方ない。
 と云うか、私なんかはそれが目当てで劇場に足を運んでいるのだから、ミュージカル・シーンが無いと許しませんですよ。でも本作は上映時間がたったの一四〇分弱しかない。マサラ・ムービーにしては、これはちょっと短いのではないか。『ムトゥ』でも一六六分あったのに。

 ドラマ的にはきちんと完結するのですが、どうにも「マサラ・ムービーを観た」と云い切るには、ミュージカル・シーンが少ないような気がいたしました。もう二、三曲は欲しかった。
 いや、途中でカットされてないか? なんか場面のつなぎがアヤシいところが数カ所あったような気がしますよ。
 それに一時間程度経過したところで「インターミッション」と云う表示が入るのですが、もちろん休憩無しでそのまま後半戦に突入します。日本でノンストップ上映なのに、なんか妙な感じ。長尺のマサラ・ムービーがそんなに早く休憩に入るわけ無かろうに。
 ──と思ったら、本当にダンスシーンがカットされていたようです。しかも四〇分カットとな(曲だけじゃなくて、ドラマ部分も一部削られているそうな)。とんでもねー。
 ノーカットで上映しろーッ。

 するとノーカット版はちょうど一八〇分くらいになるのか。マサラ・ムービーとしては標準的な尺になるワケですね。納得しました。
 何となくカットされたのは前半部分に集中しているように見受けられます。
 多分、ロボットが善悪の区別の付かない状態から学習を重ねていく過程や、感情を獲得したりするまでのドラマの間に入る筈だった歌と踊りがカットされているのでしょう。

 それから付け加えるまでもありませぬが、クライマックスのラジニカーント大暴走のアクション場面は本当に凄いデス。これはもう一見の価値ありですよ。
 怒濤の展開は、インド映画のCG合成技術の精華と申せましょう。
 多少、稚拙なところがあっても、クオリティに難があるかも知れなくても、パワーと勢いで乗り切る見事なエンタテインメントでした。
 ああ、ノーカット版でもう一度、観たいッ。




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