2012年5月22日火曜日

ファミリー・ツリー

(The Descendants)

 今年(第84回・2012年)のアカデミー賞でジョージ・クルーニーが主演男優賞候補ともなった作品で、ジョージ主演の最高傑作とも呼ばれておりました家族の絆を描く感動のドラマです。
 監督は『サイドウェイ』(2004年)のアレクサンダー・ペイン。主演男優賞に並んで、監督賞にも、作品賞にもノミネートされておりましたが、残念ながらどれも受賞を逸しております。でもゴールデン・グローブ賞やら他の映画祭での戦果は実に華々しい。
 アカデミー賞の方も、とりあえず脚色賞だけは受賞できました。

 脚色賞と云うからには、原作があります。カウイ・ハート・ヘミングスによる同名の小説があって、これを基に三人の脚本家の共同脚本で映画化されている。アレクサンダー・ペイン監督も、共同脚本のひとりとしてクレジットされています。
 アレクサンダー・ペイン監督は『サイドウェイ』でも共同脚本に名を連ねており、そちらでも脚色賞でオスカーを手にしておりますね。

 ハワイを舞台に、家庭崩壊の危機に直面した中年男と、その家族の絆が再生されていく過程が、ユーモラスなタッチで描かれていきます。加えて異国情緒たっぷりなハワイの文化や緑溢れる美しい自然も描かれ、何よりも全編に流れるハワイアン・ミュージックがいい感じデス(サントラは聴きものですよ)。
 ジョージの最高傑作と呼ばれるだけのことはありました。個人的には『マイレージ、マイライフ』(2008年)と甲乙付け難い感じです。『アーテイスト』が無ければ、多分オスカーの主要部門は本作が色々と受賞したのではないかと思えます。

 冒頭からジョージのナレーションが入るので、状況が理解しやすいです。
 ──ハワイで暮らしていると云うと皆が云う。そこはパラダイスだろうと。
 酒飲んでサーフィンしまくりなんだろうと。とんでもない。サーフィンなんてもう十五年もしていない。
 最近、妻がボート事故で入院し、もう意識は戻らないだろうと云われている。
 これが楽園? とんでもない。

 仕事にかまけて家庭を顧みることの無かった中年オヤジに、今までのツケが回ってくる(ジョージの職業は弁護士)。気がつくと二人の娘とはどう接していいのか判らない──という状況はとても他人事には思えませぬ。こうはなりたくないと切実に思います。
 一七歳の長女(シャイリーン・ウッドリー)は、何やら母親(パトリシア・ヘイスティ)と諍いした末に全寮制の高校に転校して家を出ている。自分はその諍いの原因すら知らなかった。
 一〇歳の次女(アマラ・ミラー)も小学校で問題を起こしており、父兄として対応を迫られる。
 これではイカンと一念発起し、家族の絆を取り戻すべく奮闘を開始するのですが……。

 奥さんの意識の回復は望めそうに無いところに持ってきて、本人の明確な意思表明(リビング・ウィル)が事前に用意されていたので、生命維持装置を外して尊厳死を迎えることになる。家族としては為す術が無い。ジョージにしてみれば、一言の相談も無く奥さんが独りでリビング・ウィルを用意していたと云うのもやるせない。ただ黙って見守るしか無いとは。
 出来ることはと云えば、親戚や友人達に告知し、「その日」が来る前にお別れを済ませてやってくれと頼むことくらい。

 まず手始めに長女を迎えに行く。諍いしたまま、母親に逝かれては娘も心残りだろう。
 ところが家に戻ってきた長女の口から、意外な事実が判明。母と娘の諍いの原因は、母親の浮気を娘が目撃したことだったのだ。知らぬは父親ばかりなり。
 事実を確かめるべく、友人宅へ向かうジョージ。奥さん同士が親友だったなら何か知っている筈だ。

 アロハにサンダル履きというハワイ的なユルいスタイルで全力疾走するジョージの姿がいいです。近年の「男の全力疾走」シーンには印象的なものが多いです。
 『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011年)ではトム・クルーズが、『ペントハウス』(同年)ではベン・スティーラーが全力で駆ける場面がありますが、本作のジョージもそれに負けていません。
 格好なんぞ気にしない(その余裕も無い)。

 友人夫婦を問い詰め、遂に浮気の事実を確認すると、妻がジョージと離婚するつもりだったことまで明らかになりショックを受ける。
 そこからどんどん知りたくも無かった事実が明らかになっていく。相手の男が不動産屋であることが判り、カウアイ島まで会いに出かけることにする。しかし今更、会って何をするのか。話を付けに行くのか、一発ぶん殴りに行くのか、心中穏やかで無い上に自分でも何をしに行くのか判っていない様子のジョージが切ないです。

 ストーリーとはまったく関係ありませんが、ジョージたちの車がオアフ島の高速道路を走っていく風景の隅っこに、明らかに「日本人の墓地」と判る一角が映っていたのが印象的でした。どう見ても日本の墓石だろう的なものが並んでいる土地がワンカットだけ。
 明治の頃に日本からハワイに移民した人達の墓地なのだなあと、瞬間的に歴史を感じた風景でした。調べてみると「マキキ日本人墓地」と云うのがオアフ島にあるそうなので、その近くでロケをしたのか。
 いや、ただそれだけなんですけどね(汗)。

 妻の不倫相手と対決するというストーリーの一方で、ジョージの御先祖がカメハメハ大王の末裔であったことから、一族所有の広大な土地を売却する話も持ち上がっている。アメリカの法律により、不動産の永年相続は認められておらず、あと七年の間に処分しないと、自動的に政府の資産となってしまう。
 リゾート開発に前向きな企業から引き合いはあるが、どこに売るべきなのか。そもそも売るべきなのか。ジョージは一族の長として、ハワイ最後の手つかずの私有地の行方をどうするのかと決断を迫られている。
 公私ともに大変な上に、浮気相手の不動産屋が、一族の土地の売却仲介業者であったことまで判明し、ますます難しい立場に立たされる。
 何をどう判断しても、そこに一片の私情も挟んでいないと云い切れるのか。

 観ている側としては、別に私情が挟まってもいいんじゃないかとも思うのデスがねえ。
 弁護士という設定上、職業倫理を貫こうとして余計に苦悩を背負い込んでいるように見受けられます。特に強調するような演出ではありませんが、常に己を抑えて公平であろうとする高潔な人柄が伺えます。

 このジョージの人柄は、長女のボーイフレンドに対する態度にも現れています。
 カウアイ島への小旅行は家族旅行であると同時に、不倫相手との対決の為でもあるのですが、長女はこれにずっとボーイフレンドを同行させている。
 シド(ニック・クロース)と名乗る青年は、最初はもうまったくの軽薄野郎で、父親目線からすると娘がなんでこんな若造と付き合っているのか判らない。早々に放り出しても良さそうなものと思われるのに、ジョージはグッと堪えて旅行への同行を許している。
 実は後半になると、シド青年の家庭の事情や、性格も判ってきて、どんどんシドが好青年になっていきます。この演出は見事でした。
 同時に短気を起こさなかったジョージの辛抱強さには敬服いたします。ちょっとユルいハワイアンな格好ですが、実は怖ろしくストイックな男だったのだ。

 遂に不倫相手と対決するときが来ても一度も激高せず、感情を抑え、あまつさえ相手に対する気遣いさえ見せる(実は相手の男には奥さんと子供がいたのだ)。このときのジョージの態度には尊敬の念すら抱きます。腹の中は煮えくりかえっているだろうに、冷静さを失わないとは恐れ入りました。
 実は全編を通じて、ジョージは誰にも恨み言をぶつけません。意識を取り戻さない奥さんにも、枕元で今までの自分の態度を詫びるだけ。
 逆に色々な方面から責められている。それでも抗弁は全くしない。尊敬に値する漢ですよ。
 結局、ジョージが手を下さずとも、不倫相手は自業自得的に己の家庭をグダグダにしてしまうので、観ている側としては少しだけ溜飲が下がります。

 そしていよいよ奥さんとの別れの日がやってくる。
 本作ではパトリシア・ヘイスティは最後までベッドに寝たきりでピクリともしません。こういう役も結構、ツラいものがありますね。
 そして病室での最後の別れの次に、いきなり散骨のシーンへ飛ぶ省略の演出が秀逸です。お涙頂戴な葬儀シーンはカット。
 それにしても散骨か。ハワイはアメリカで最も火葬が多いそうですが、散骨も多いのかしら。
 遺骨を墓に入れること無く、散骨すると云うのも奥さんの希望だったのか。最後までジョージは拒絶されたままなのですが、これに対しても静かに耐えるのみ。
 美しいカウアイ島の湾にカヌーを浮かべて、父娘三人で散骨する。骨壺をのぞき込むジョージの表情が忘れがたいです。人の儚さも感じられる名シーンです。
 湾の背後に売却しようとしていた一族の土地が広がっており、実はすぐそばまでリゾート開発の高層ビル群が迫ってきているという背景も、なかなか意味深です。

 ラストシーンは父娘がそろって居間でTVを観るという、どこの家庭にもある光景。特に誰も笑ったり、幸せそうにしていないのが逆に良いです。
 家庭の幸せと団らんとはかくあるべきであると云う、さりげない演出がお見事でありました。




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