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2012年4月30日月曜日

テルマエ・ロマエ

(THERMAE ROMAE)

 ヤマザキマリの同名コミックを実写映画化したコメディ映画です。一応、タイムスリップするし、SFなのかな。当節はもはやタイムスリップ如きではSFとは云わないのですかね。「少し・不思議」程度なのか。理屈もナニもありませんからね。
 もう「公衆浴場」とか「入浴文化」というキーワードのみで、古代ローマ帝国と現代日本をつないでしまおうと云う強引さ。SFと云うよりも壮大なホラ噺。でも嫌いじゃないワ。
 現代日本で古代ローマ人が体験するカルチャーショックが笑いを誘います。

 まず、何を云うにしても、主演の阿部寛がインパクトありすぎです。本作はもう、阿部寛が一人で背負って立っていると云っても過言では無いでしょう。
 監督は『のだめカンタービレ 最終楽章(前編)』(2009年)の武内英樹です(後編では総監督)。メインはTVドラマの演出家だそうなので、これが私の観る初の竹内監督作品──と云うか劇場用長編作品は『のだめ~』の他には本作しかない──です。
 ちょっとTVドラマっぽいところもありますが、ちゃんとローマでロケしたり、外国人エキストラが大挙して登場したりしてくれるお陰でチープにならずに済んでいます。結構、面白かったデス。

 古代ローマ帝国の浴場(テルマエ)設計技師が現代日本にタイムスリップしてしまうという一発ネタのみの映画ですが、そもそも原作コミックスも最初は一話完結の一発ネタ(しかも不定期連載)ですから、違和感はありませんね。
 でも一話だけだと、それこそ『世にも奇妙な物語』の一エピソード止まりの短編になってしまいますので、原作のネタを次から次へ投入しながら、短編をつないだオムニバス長編の趣になっております。
 ひとつのネタにつき、一回タイムスリップするので、ネタの数だけ行ったり来たりを繰り返す。

 一応、原作コミックスの方は読んでおります。映画化されているのは、主に第一巻を中心にして、第三巻くらいまでの内容。ネタを取捨選択しながら、何とか一本の映画としてまとめようとした苦心が伺えます。
 しかしその所為で不完全燃焼に終わってしまうネタも散見されるのが惜しい。特に「金精様」ネタは前後のストーリーとリンクしていないので、ばっさりカットしても差し支えなかったように思われます。もう奥さんに離縁されるシチュエーションごとカットしてもいいくらい。

 映画の後半は原作には無いタイム・パラドックスを持ち出して、歴史改変の危機を回避しようという流れになっておりますが、これは如何なものか。ヘンに深刻な物語にすると、軽いホラ噺としてのテイストが失われてしまうと思うのデスが……。
 やはりローマのチネチッタまで行って撮るのだから、少しは本格的な歴史物語にしようと欲が出てしまったのですかねえ。

 ホラ噺だけにしておくには勿体と思うのも無理のないくらい、古代ローマのオープンセットはお見事デス。邦画でここまで重厚なローマ帝国を描いたのは本作が初めてでは無いでしょうか。
 それにしてもどこかで観た街並み……と思ったら、HBOとBBCが共同製作した海外ドラマシリーズ『ROME[ローマ]』のセットをそのまま使っていたのだとか。リアルなハズだわ。
 ケヴィン・マクキッドやレイ・スティーヴンソンがひょいと登場しても違和感なし(笑)。
 チネチッタのオープンセットを行き交う千人のエキストラ。これはなかなか壮観です。

 物語の背景は、西暦一三〇年代の古代ローマ。五賢帝のひとりハドリアヌス帝の治世。
 失職中の浴場設計技師ルシウス・モデストゥス(阿部寛)は、公衆浴場で奇妙な排水口に足を取られて吸い込まれてしまう。急激な水流に押し流されたルシウスが現れたのは、見知らぬ民族が集う、不思議な浴場だった。
 銭湯の壁画やら、フルーツ牛乳やらにいちいち大げさなリアクションをしてくれる阿部寛が可笑しいです。
 「平たい顔族」と名付けた属州民の文化を持ち帰ったルシウスは次々に斬新な発想の──実は剽窃しているだけなので内心忸怩たるものがある──浴場を建て、ローマで評判になっていく。
 それにしても、日本のカルチャーギャップ・ネタになると、必ずと云って良いほど「洗浄機能付トイレ」が登場するのはお約束ですねえ。『カーズ2』(2010年)でもやってましたし。 

 ローマの街を行き交う群衆や、公衆浴場の客達は紛う事なきガイジンさん達ですが、ドラマの都合上メインの配役は日本人俳優にしないとイカンという制約があるのが辛いデス。いっそローマ人の役は阿部寛以外の全員、イタリア人にしても良かったのではないかと思うのですが。
 やはり「平たい顔族」の役者に、ローマ人は──特にモブが本物だけに──ちょっと違和感がありますねえ。
 阿部寛以外の主なローマ人役は四人。

 ハドリアヌス帝の市村正親。
 ケイオニウス(次期皇帝候補)役の北村一輝。
 アントニヌス(ハドリアヌスの側近)役の宍戸開。
 マルクス(ルシウスの友人)役の勝矢。

 日本人にしては「濃い顔」の俳優を選びつつ、頑張ってメイクしているのは判りますし、演技力に不満があるわけでは決して無いのですが、やはり見た目はイカンともし難い。「濃い顔」を更に濃くしようとして、ちょっと舞台演劇みたいなメイクになっているのも苦しい。うーむ。ガイジンの俳優にして、あとで日本語に吹替するのでは不味かったのかなあ。
 でも市村正親と北村一輝は、さすがの演技力です。
 阿部寛もローマ帝国にいるときや、モノローグは日本語で喋りますが、タイムスリップした先の日本人に向かっては頑張ってラテン語の台詞を喋ります(日本語字幕付き)。それほど多くはありませんけど。

 これに加えて上戸彩が現代日本で、阿部寛と関わりを持ちながらドラマが進行していく。
 原作のコミックでは、一話毎にルシウスが関わる日本人は別人でしたが、本作ではそれをすべて上戸彩にしてしまって、連続したドラマにしようとしています。
 おかげで上戸彩は、漫画家志望で、昼間は浴室メーカーに勤めるOL、実家は温泉旅館という設定になっています。かなり強引ですね(笑)。
 でもなんとか一本の映画としては筋が通っています。阿部寛の行く先々に上戸彩がいるのが妙にオカシイし、何の説明も無いのですが、そもそもタイムスリップ自体も理屈抜きなので、時空を超えた絆のようなものがあるのでしょう。

 実際、ドラマの後半は阿部寛と共に上戸彩の方が古代ローマに行ってしまい、タイムパラドックス絡みのドラマになっていきます。
 史実ではハドリアヌス帝の後継者は思慮深いアントニヌス・ピウスになる筈なのに、このままでは軽薄なケイオニウスになってしまう。浴場(テルマエ)を作る作らないでローマ帝国の歴史が変わってしまうというのが笑ってしまいますが、「湯の力」をバカにしてはイカンですね。
 テルマエはローマ人の活力の源なのですから。

 ホラ噺から一転、シリアスな物語になってしまうことについては、異論がありますかねえ。
 ただ、それでも面白くないというワケではないです。それなりに頑張っているのは判る。ハドリアヌス帝の意に逆らっても信念を貫こうとするルシウスは結構、カッコいいです。

 「行ったら殺されるよ。もっと自分を大事にしなきゃ」
 「だからこそ行くのだ。自分を大事にするとは、己を殺して生き延びることではない」

 ローマ帝国での阿部寛と上戸彩との会話は、すべて日本語台詞ですが、ストーリー上は阿部寛に惚れた上戸彩が一生懸命ラテン語を習う場面があるので、なんとか説明はつくか。
 でもシリアスなドラマになっているのだから、画面の隅っこに「バイリンガル」と表示しなくてもいいのに。ヘンな部分で笑いを取ろうとしているように見受けられました。

 そして帝国領のハンガリア方面での蛮族平定に出兵中のハドリアヌスの元に駆けつける。
 史実ではケイオニウスが出征して戦死する筈なのに、どこをどう間違ったのかハドリアヌス帝が直々に軍を指揮している。「指揮官の戦死」という事態が現実になるなら、このままでは死ぬのはハドリアヌスであり、そうなると次期皇帝はアントニヌスではなく、ケイオニクスになってしまう。
 何としてもハドリアヌスを生還させて、後継者にアントニヌスを指名させねばならない。
 その為にもローマ軍には勝利してもらわねばならないのに、兵士達は疲れきって士気もあがらない。

 ローマの街の重厚さに比べて、戦闘シーンがユルすぎるのは仕方ないか。リドリー・スコット監督の『グラディエイター』(2000年)のようにはイカンか。そこは期待する方が無理なのか(ちょっと哀しい)。

 全体がサクセス・ストーリーなので展開は読めていますが、「湯の力」によって活力を取り戻したローマ兵の皆さんは(これも外人のエキストラ)、士気もあがり蛮族を蹴散らし、ハドリアヌス帝は見事に凱旋帰国。
 ローマ帝国の未来も安泰というところでハッピーエンド。
 何となく他の部分で歴史を変えまくって、ホントに大丈夫なのかという気になりますが、細かいツッコミはスルーです。

 現代に帰還した上戸彩も、漫画家志望と云う夢を叶え……るのはいいが、描いた原稿がヤマザキマリの直筆なのには笑ってしまいました。上戸彩はヤマザキマリ本人だったのだ(ホンマかいな)。
 原作コミックは第四巻以降、人気が出たので長編ドラマとして仕切り直しが図られておりますが、映画も続編があるのでしょうか。本作がヒットすればあり得なくは無いか。
 でも続編製作の際には、出来るだけローマ人の役に「平たい顔族」の俳優を起用するのは控えた方がいいと思いますデス。

 すべての風呂はローマに通ず──と云うのは、けだし名言ですね。




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