2012年4月5日木曜日

スーパー・チューズデー/正義を売った日

(The Ides of March)

 ジョージ・クルーニーが共同脚本・監督・主演を務めた政治サスペンス映画です。アメリカ合衆国大統領予備選の裏側で、各陣営の選挙参謀達が策をめぐらし、罠を仕掛けるという権謀術数なドラマ。
 本作でジョージの監督作品は四本目。俳優としても監督としても、確かな腕を持っていますねえ。アカデミー賞の授賞式典では毎回、ネタにされてイジられておりますが、堂々としたものです。
 本作は、今年のアカデミー賞では脚色賞、ゴールデン・グローブ賞では監督賞と脚本賞にノミネートされました(いずれも受賞は逸してしまいましたが)。

 しかし本作の主演はジョージではなく、ライアン・ゴズリング(以下、ゴズりん)。
 つい先日もゴズりん主演の『ドライヴ』(2011年)を観ましたが、また印象の異なる役を見事に演じておられる。
 ゴズりんは民主党大統領予備選に立候補した知事(こちらがジョージ)の選挙参謀という役柄。当初はレオナルド・ディカプリオやクリス・パインも候補だったそうですが、最終的にはゴズりんに決定。
 ゴズりん主演になったおかげで、主人公は頭はキレるが若干、線が細くて神経質そうな男になりました。

 ゴズりんの上司となる選挙参謀のチーフが、フィリップ・シーモア・ホフマン。海千山千なプロフェッショナルの選挙参謀です。ゴズりんはその弟子という感じ。
 対立候補側の選挙参謀が、ポール・ジアマッティ。これまたホフマンと比べても遜色なしなタヌキオヤジ。
 個人的に、ホフマンとジアマッティという演技派オヤジが二人も揃っているので、実に嬉しい。加えてジョージとゴズりん。
 オマケにジェフリー・ライトまで。『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(2011年)や『ミッション:8ミニッツ』(同年)で、最近よくお見かけします。
 俺好みの俳優ばかり集めてくれてありがとう、ジョージ。

 オヤジ度の高い映画ですが、大統領選挙戦は男同士の駆け引きと裏のかき合いといったドラマになるので仕方ないのでしょうか。女性の登場人物は少ないデス。
 数少ない女性キャラとして、ニューヨーク・タイムズの記者役で、マリサ・トメイが出ています。
 それからゴズりんの部下となる選挙スタッフの若手として、エヴァン・レイチェル・ウッドも。
 マリサ・トメイとエヴァン・レイチェル・ウッドと云えば、ミッキー・ローク主演の『レスラー』(2008年)でも一緒に出演しておられましたが、ここでもか。

 本作は二〇〇四年の民主党大統領予備選挙をモデルに書かれた戯曲が原作だそうな。
 ジョン・ケリー候補とジョン・エドワーズ候補がしのぎを削って戦ったアレか。結局、大統領選では共和党のジョージ・ブッシュ(現職大統領)に破れましたが。個人的に、ケリー候補には是非ともブッシュの二期目を阻止してもらいたかったところですが、惜しい。
 まぁ、それはさておき。このときにケリー候補とエドワーズ候補以外の候補者だったハワード・ディーン候補の選挙スタッフだったボー・ウィリモンが原作者。本作でも、ジョージと共に共同脚本にクレジットされております。

 原作戯曲は「ファラガット・ノース(“Farragut North”)」と云う題名でしたが、ジョージの案で “The Ides of March” になったとか。これはユリウス・カエサルが暗殺された日を指すのだそうな。意味深ですが、判り辛いですね。
 カエサル暗殺も三月のことだし、大統領選やその予備戦も二月から三月にかけた火曜日に行われるので、それを掛けたそうですが、今回ばかりは邦題の方が圧倒的に判り易いか。

 本作でジョージ演じる知事は、実に高潔な人物として描かれます。理想を掲げ、カリスマ性があり、見た目の印象もナイスガイとくれば、理想の大統領候補です。このジョージがカエサルと云うワケですね。
 そしてブルータスを演じることになるのが……。

 当初はジョージ優勢で進行していた選挙キャンペーンも、対立候補の追い上げが激しく接戦となる。オハイオ州での予備選挙では、大物上院議員(ジェフリー・ライト)の支持を取り付けた方が勝利するという構図になるのだが、ジェフリーは日和見主義者でジョージの掲げる理想からはほど遠い人物。いくら選挙参謀達が「手を組まないと負けてしまう」と説得しても、信念を貫くジョージはこれを突っぱねる。
 いやぁ、こういう人にこそ大統領であってもらいたいものですねえ。
 現実にも「オハイオを制する者は全米を制する」とまで云われるくらいだから、参謀達がやっきになるのも判りますが。

 選挙キャンペーンを取り仕切って飛び回るホフマンの留守を預かるゴズりんは、スタッフの一人である女性(エヴァン・レイチェル・ウッド)と親しくなるが、彼女はジョージとも関係を持っていたことを知る。
 おまけにエヴァンは妊娠しており、父親候補筆頭がジョージ。
 選挙参謀が一番嫌う悪夢のような展開。
 ゴズりんはホフマンにも内密で、事を納めようと奔走する。選挙資金の帳簿を操作し、州外の堕胎クリニックに人知れずエヴァンを送り届ける。選挙参謀というのも大変な仕事です。

 それにしても、どうして政治サスペンスなドラマになると、候補者のスキャンダルとして「未成年者との不倫」がいつもネタにされるのでしょうかね。それが命取りというのは判りますが、過去幾つものドラマの中で、そればっかりネタにされているような気がします。
 やはり法的にも、倫理的にも、一番許されない行為なのか。
 ジョージほどの高潔な人物でも、酔ったときには流されてしまうこともあるというのが哀しい。人間的ではありますが。

 そんなときにゴズりんは、対立候補の参謀ジアマッティから呼び出しを受ける。ジアマッティは有能なスタッフとして、ゴズりんをヘッドハントしようと申し出るのだが……。
 これを上司である選挙参謀チーフのホフマンに秘密にしていたことがバレて、ゴズりんの信用は一気に失墜してしまう(そりゃそうだ)。
 この業界では、「信用こそが通貨である」というホフマンの持論は正しいのでしょう。そして一度失った信用は、もう元には戻らないと云うのも判ります。
 まあね、ちょっとホフマンも頑なすぎるところがあるのは否めないです。「絶対的忠誠心しか信じない」と云うのも極端すぎて如何なものかと思うのですが。長年の選挙を戦い抜いた経験がそうさせるのか。

 あっさりゴズりんは解雇されるが、実はこれこそがジアマッティの陰謀。対立候補陣営の力を削ぐのが目的であって、端からヘッドハントなんてするつもりもなかったのだった。
 哀れゴズりんはどちらの陣営からも爪弾きにされ、寄る辺なき身に……。
 どちらの陣営に付くのが得かどうかなんて、内心ちょっとでもソロバンをはじいた時点でアウトだったのか(それはキビし過ぎるような)。

 ところが失意のゴズりんの元に、エヴァン急死の報せが届く。堕胎後の処置がまずかったのか、服用した薬物の分量を間違えたのか。
 とにかくこれでジョージの秘密は自分しか知らないことになってしまった。
 この秘密を武器に、業界への返り咲きを企むゴズりん。にわかに悪党ぽくなっていく演技がお見事デス。

 本作の一番の見どころは、悪党になったゴズりんがジョージを脅迫しようとする場面ですね。
 ジョージ対ゴズりんの腹を探り合うやり取りが、緊迫感に溢れていていい感じデス。でもどう見てもジョージに分が悪い。
 アクション要素のまったく無い作品ですが、二人の俳優の眼力だけでドラマを盛り上げてくれます。さすがは演技派な役者同士。

 かくしてジョージの選挙参謀に返り咲いたゴズりんは、逆に上司だったホフマンを解任させてしまう。
 一体、どんなマジックを使ったのか判らないながらも、自分の後釜に座ったゴズりんに「一流になったようだな」と、弟子の成長を祝福するかのように云い捨て、去って行くホフマン。これは選挙参謀の世代交代劇だったのか。
 こうなるとジアマッティですら敵ではない。

 しかしどうなんですかね。選挙に勝つ為には手段を選ばないとしても、手段が目的化してしまい、それで勝って何か意味あるのか。選挙参謀はそこまで考えなくてもイイのか。
 大物上院議員には副大統領の椅子を約束し、地元議員を動員させて予備選に勝利するジョージ。もはやゴズりんの操り人形状態。
 あれほど高潔な候補者だったのに、もうその姿には見る影もない。まるでロバート・レッドフォード主演の『候補者ビル・マッケイ』(1972年)のようです。
 代わってスポットライトの中に歩み出てくるのはゴズりん。
 「勝利の秘訣は?」と問われて不敵な面構えを見せる大悪党と化している。

 そうかー。国の未来を左右するのは、選挙参謀だったのかあ。ゴズりんにはこれからホワイトハウス入りして、大統領補佐官となる輝かしい未来が拓けているワケですね。
 うーむ。いいのかそれで。


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