2012年4月14日土曜日

アーティスト

(The ARTIST)

 今年(第84回・2012年)のアカデミー賞で作品賞、監督賞を始め五部門制覇の傑作ロマンス映画です。フランス映画で、アカデミー賞作品賞を受賞したのは本作が初めてであるとか。普通なら外国語映画賞になるところでしょうが、台詞の字幕が英語だった所為ですね。
 アカデミー賞の他にも、世界中で色々と受賞しまくり。受賞とノミネートの一覧だけで長々としたリストが出来るほどです。すごいもんだ。
 前評判に違わず大変、面白かったデス。映画好きは観ておかなきゃイカんでしょう。
 
 それにしてもサイレント映画を観たのは久しぶりのことです。昔、NHKがチャップリンの諸作品を放送していたときもありましたが、最近じゃとんとお目にかかれないですねえ(まぁ、DVDでリリースされていますから)。
 トーキー全盛時代に敢えてサイレントで製作した作品と云うと、メル・ブルックス監督の『サイレント・ムービー』(1976年)とか、林海象監督の『夢みるように眠りたい』(1986年)くらいしか思い浮かびませんです。

 とにかく本作は、全編に溢れる〈映画愛〉が素晴らしいです。ミシェル・アザナヴィシウス監督の映画に対するリスペクトが画面から滲み出ているようです。
 画面と云えば、スクリーンのサイズが昔ながらの4:3だった点にもコダワリを感じました(何もそこまでしなくても)。徹底的に昔のスタイルを再現しようと云うのか。
 オープニングもまた昔懐かしい演出で、メインテーマに乗ってタイトルが表示され、続いて主なスタッフとキャストが表示されていきます。

 そう云えば、アカデミー賞で主要部門を競り合ったマーティン・スコセッシ監督の『ヒューゴの不思議な発明』(2011年)もまた、〈映画愛〉に溢れる作品でした。同じく映画に対する愛に溢れ、アメリカで制作されたフランスを舞台にした映画と、フランスで制作されたアメリカを舞台にした映画が、同じ年にアカデミー賞で頂上決戦を演じるというのも奇しき縁です。
 どちらかと云うと『ヒューゴの不思議な発明』は技術面での〈映画愛〉が強く感じられましたが、本作はスピリット面での〈映画愛〉でしょうか。

 物語の背景は一九二〇年代後半。映画がサイレントからトーキーへと移り変わる頃のハリウッドが舞台。
 トーキーと云う新しい技術を小手先の邪道であると一笑に付した為に凋落するスター俳優ジョージ(ジャン・デュジャルダン)と、トーキー映画への出演を機にスターダムにのし上がっていく新人女優ペピー(ベレニス・ベジョ)のラブロマンス。
 物語の筋立てにはあまり意外な点はありませんです。お約束のオンパレードのような定番展開ですが、逆にそこがいいのでしょう。もうベタなメロドラマですから。

 共演している俳優に、ジョン・グッドマン、ジェームズ・クロムウェル、マルコム・マクダウェルと云った馴染み深い人達。ペネロープ・アン・ミラーもいましたね。
 特にジェームズ・クロムウェル演じる老運転手の見せる忠誠心には打たれます。

 それから人間だけじゃなくて、犬も素晴らしい。
 デュジャルダンの飼い犬を演じたアギーの名演技も忘れてはならぬでしょう。今年から創設された犬版オスカー「ゴールデン・カラー(金の首輪)賞」を受賞したのも納得の名演技。でも個人的には『人生はビギナーズ』(2011年)のコスモくんにもあげたかったところデスが。
 マーティン・スコセッシ監督は『ヒューゴの不思議な発明』に登場したブラッキーが受賞できなかったのが御不満だったようですが、ブラッキーは「怖いドーベルマン」の筈なのに、妙につぶらなお目々をしておりましたからねぇ。

 サイレントからトーキーへの移行時代が背景と云うと『雨に唄えば』(1952年)なんてのも思い出します。「ベテラン俳優と新人女優の恋」と云う図式も、ジーン・ケリーとデビー・レイノルズみたいですねえ。
 劇中でベレニスがデュジャルダンの楽屋で、彼のタキシードに袖を通して一人芝居に耽る微笑ましい場面がありましたが、これも『雨に唄えば』へのオマージュですね。ドナルド・オコナーほどお笑いの場面ではありませんが(笑)。
 本作は他にも至るところに過去の名作へのオマージュが散りばめられております。映画ファンであるほどに、ニヤニヤ出来る。このあたりのくすぐりも、本作があちこちで受けている要因でしょう。
 そもそもデュジャルダン自身が、劇中ではダグラス・フェアバンクスを思い起こさせるようなヒゲを生やして登場していますし(私はクラーク・ゲーブルかなと思っていましたが、少し年代が違いました)。
 御本人もアカデミー賞授賞式で主演男優賞を受賞した際に、「ダグラス・フェアバンクスに感謝します」とスピーチしていたのだから確かでしょう(笑)。

 アカデミー賞主演男優賞のプレゼンテイターであるナタリー・ポートマンが、「セリフが二つしかないけれど、その演技はとても雄弁でした」と紹介しておりましたとおり、本作に於けるデュジャルダンの演技は実に判り易いです。サイレント映画特有のちょっと誇張した身振りや表情もわざとらしくないというのが巧いですね。
 私は本作で初めてデュジャルダンを知ったのですが、同じミシェル・アザナヴィシウス監督作品の『OSS117/私を愛したカフェオーレ』(2006年)にも主演しておりますね。スパイ映画のパロディだそうですが、基本的にコメディアンなのか。まぁ、本作もサイレント映画全般のパロディみたいなものとも云えますし(それにしては本格的すぎますが)。
 『OSS117~』はDVDリリースされているし、チェックしなければなりますまい。ベレニス・ベジョも出演していますし。ベレニスはアザナヴィシウス監督の奥さんでもあるそうで、当分はこのトリオの組み合わせは不動になるのでしょうか。『OSS117~』には続編(2009年)もあるそうなので、そっちも早くDVDでいいからリリースされないものか。

 本作を「サイレント映画全般のパロディみたいな」と書いたのは、実は完全なサイレント映画ではないからです。一部、効果音やセリフが入ります。デュジャルダンも二言、喋りますし。
 これがなかなか効果的な演出で、ある部分でだけ画面に音が付く。でもデュジャルダン自身のみ、サイレントという演出。時代に取り残されていく男の悪夢が見事に現れておりました。
 そしてセリフが付くのがラストシーン。
 メル・ブルックスの『サイレント・ムービー』でも、最後の最後で一言だけセリフが飛び出すというオチがつきますが、やはり無声のまま続いてきたドラマで突然、キャラが喋るのはインパクトありますねえ。

 紆余曲折の末、ベレニスの愛と共にスクリーンにカムバックすることになったデュジャルダン。それまで喋らなかったジョン・グッドマンも喋ったり、二人の息づかいまでが聞こえてくる。
 このラストシーンはデュジャルダンとベレニスが見せるタップダンスが最高なハッピーエンド。
 もうフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの名コンビを彷彿とさせるシーンです。『トップハット』(1935年)か『有頂天時代』(1936年)かと云う感じ。
 トーキーの到来と共に、ミュージカル映画の時代となるというのが察せられ、またまた『雨に唄えば』を思い出してしまいました。

 本作の音楽はルドヴィック・ブールスというフランスの作曲家ですが、先述の『OSS117~』の音楽もこの人。アザナヴィシウス監督は同じスタッフやキャストで映画を制作するのが好きなんですね(大抵の監督はそうか)。
 サイレント映画である分、劇中で流れる劇伴の音楽が実に印象的です。アカデミー賞作曲賞も受賞しました。その他、色々なところで作曲賞を受賞しておられる。
 サントラはいかにも二〇年代のノスタルジックな音楽で聴きものです。

 しかしながら音楽的に問題になった箇所もあるそうな。
 劇中ではアルフレッド・ヒッチコック監督の『めまい』(1958年)で使われたバーナード・ハーマンの音楽が流れるところがあります。これもまた過去の名作群に対するオマージュのひとつなのであろうと思われますが、『めまい』の主演女優だったキム・ノヴァクはこれがお気に召さなかったようで、なんかクレーム付けていたとか。
 よく判りませんなあ。映画の中でクラシックの名曲が使われることも多々ありますし、よくパロディ映画でも別の映画のテーマ曲が使用される場合もあるのに。演出上、確固とした目的の下に、きちんと使用料を払って使う分には、問題ないのでは……。

 アザナヴィシウス監督自身、ヒッチコックや、フリッツ・ラングの映画がお好きだそうですし──そもそもそうでなければイマドキ無声映画を撮ろうとは思わないか──、本作の〈映画愛〉には一点の曇りもないと思います。映画好きによる映画好きの為の映画。
 本作のプロデューサーであるトマ・ラングマンも、アカデミー賞作品賞受賞のスピーチで先達へのリスペクトを表明しておられました。


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