2012年3月25日日曜日

ポゼッション (1981)

(POSSESSION)

 本作もまたDVDで鑑賞いたしました。かつてDVD化されながら、現在は入手困難につき中古ディスクにプレミア価格が付けられていて、どうしたものかと思っていたら、スティングレイ社から復刊されました。実に有り難いことデス。
 一九八一年のフランスと西ドイツの合作映画です。「ドイツ」じゃなくて「西ドイツ」なところに時代を感じます。

 サスペンスと云うか、サイコ・スリラーと云うか、こりゃもうオカルト・ホラーの域に達しているだろうと云う実にカルトな一編。
 ポーランド出身のアンジェイ・ズラウスキー監督が、イザベル・アジャーニを主演に起用し、世界的に注目を浴びることになった作品で、本作はカンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)にノミネートされ、イザベルは主演女優賞を受賞しました。
 パルムドールを逸したのはね、仕方ありませんか。一九八一年のパルムドールはアンジェイ・ワイダ監督の『鉄の男』ですから(こちらもポーランド人監督ですね)。
 その代わり、イザベル・アジャーニの主演女優賞は、納得でしょう。本作に於けるイザベルの狂気を孕んだ演技はもう、凄まじいというか、ナンと云うか。

 いくら「官能と狂気と不条理が交錯する作風」が売りの監督とは云え、これはエゲツない。美人にヒドいことする監督です。なんてことしやがる。
 その一方で、監督の要望に見事に応えきったイザベルの演技は素晴らしいです。こんな綺麗で美しい女性が、凄まじいまでにイッちゃった演技を披露してくれます。もう目付きからして怖い。
 近年、『ブラック・スワン』(2010年)のナタリー・ポートマンの狂気を孕んだ演技がアカデミー賞主演女優賞を受賞しましたが、ナタポーもイザベルに比べればまだまだかしら。比較しちゃイカンですか(笑)。

 舞台となる都市はベルリン。この時代、ドイツは東西が統合されておりませんので、ロケされた背景にも、フツーに「ベルリンの壁」が映っております。
 演出上の計算もあってか、この「ベルリン壁」が間近に見えるマンションが撮影に使用されているので、窓の外の風景に当たり前のように「壁」があって、鉄条網の向こうで警備に付いている東ドイツの兵隊さんも見受けられる。撮影風景が珍しいのか、こっちを監視しているようにも見えます(でも物語の設定上、それで正しいような……)。

 劇伴の音楽がほとんどなく、冒頭のオープニングがなかなかスリリングなスコアで盛り上がる……と思わせて、あとはもう静かなものです。エンディングに至るまで、ほぼ劇伴なし。個人的にポーランド映画と云うのは「静かな映画」という印象が強いのですが、本作もまた、監督がポーランド人なので実に静かです(仏独合作なのに)。

 イザベル・アジャーニは美しい人妻の役であり、旦那さんの役はサム・ニール。いやぁ、サム・ニールが若いッ(そりゃそうだ)。
 長いこと単身赴任だった夫が、妻と息子の家庭に帰ってくる。しかし久々に会った妻との関係は何故かぎこちない。
 不審に思った夫が調べると、妻の不貞が明らかになる。単身赴任中に妻は浮気していたのだ。問い質すとあっさりと不倫を認める妻。しかし理由が判らない。どうやら本人も自分で判っていないと云うか、説明がつけられないらしい。
 夫婦喧嘩になって、妻は家を出て行くのだが……。

 夫の仕事が何なのかよく判りませんが、冒頭の警察らしい建物の中で何かの委員会に報告する場面があり、スパイか潜入捜査官だったらしいことが察せられます。冷戦中のベルリンでもありますし。単身赴任状態が長かったのも、それで納得です。
 この任務報告の場面で、報告を聞く男達の中にいた「眼帯の男」が、終盤の銃撃戦の中にも登場したり、報告の際に言及された「ピンクの靴下の男」もまたラスト近くに登場するなど、ちゃんと伏線を張っています。
 まぁ、伏線を張っていても、本筋はそういうスパイ・アクションものでは無いので、あまり意味は無いのですが(汗)。
 委員会は任務の継続を打診するが、サムは家族を大事にしたいと任を辞して帰宅する。報酬としてかなりの額の現金を受け取っているので、そのあとのストーリーでずっと家にいても不思議ではないです。
 妻が出て行った後は、父子家庭状態ですが、ちゃんと小学校へ息子を送り迎えして頑張っている(最初に三週間ほど幼い息子を放置していたこともありましたが)。

 とは云うものの、愛妻の裏切りに翻弄され、次第に夫の方も情緒不安定になっていく。
 意を決して不倫相手と対決すれば、相手の方が自分より強くてボコボコにされたり、踏んだり蹴ったり。
 しかし妻はその不倫相手の家にもおらず、行方が判らない。一人息子に会う為に、毎日のように自宅に現れるのだが、どこへ帰って行くのか。
 夫は探偵を雇って、妻の尾行を依頼する。やがて探偵はダウンタウンの老朽化したアパートを突き止めるのだが、そこで驚くべきものを目撃する。

 サスペンスかサイコ・スリラーか、と云う展開はここまで。
 いきなりオカルト・ホラーに突入するので、大抵の人は我が目を疑ってしまうでしょう。私も思わず「なんじゃこりゃ?」と開いた口が塞がりませんでした。
 何故、ここでそんな展開になるのか。

 妻はアパートのバスルームで、人知れず得体の知れない生き物を産みだし、育てていたのであった……。
 本作の特撮はカルロ・ランバルディ。SF者にはお馴染みの特撮マンですね。スティーブン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』(1977年)、『E.T.』(1982年)、リドリー・スコット監督の『エイリアン』(1979年)、デヴィット・リンチ監督の『砂の惑星』(1984年)等々。クリーチャー製作の第一人者として一世を風靡したときがあったのですよ。
 本作もまた、カルロ・ランバルディの職人技が炸裂しております。いやぁ、これは気色悪いクリーチャーですわ。ストーリーと関係なく、このクリーチャーだけでも一見の価値ありと申せましょう(いや、ホント)。

 本作のワケが判らなくなっていくのは、このクリーチャーが登場してからで、コレが何なのか一切説明が無い。何となくイザベルの妄想が生み出した魔物と云う扱いですが、はっきりしません。
 劇中でも「自分の中に聖と邪が同居している」旨の発言をしておりますし、多分に精神的なものの産物ではあろうと思うのデスが、ここまで怪奇色全開に演出する必要があったのか。
 カンヌではイザベルの奇行や、狂気が「ポーランドの悲劇的な歴史を象徴的に表現している」と評されたそうですが、ホンマかいな。
 そこまで穿った見方をしてまで理解する必要も無いのでは。
 ごくフツーのB級オカルト・ホラー作品だと思うのデスが。

 まぁ、B級ホラーにしては、イザベル・アジャーニの迫真の演技が凄すぎるので、十把一絡げに扱うのも如何なものかという感じはします。だからカルト・ムービーですね。
 一番の見どころは、地下道を歩いていて、いきなり狂態を演じるイザベル。もう狂っているとしか思えません。
 惜しげも無くヌードを披露してくれるのも素晴らしい。何回かポロリなシーンがあります。まぁ、サム・ニールのケツはあまり観たくありませんでしたが。

 秘密を探りに来た探偵を始末し、その後もアパートを訪れる邪魔者を片付けていくイザベル。登場するクリーチャーが、段階的に少しずつ成長していく描写も怖ろしい。
 最初はヒトデのように触手をうねらせていたクリーチャーに、次第に目鼻が付いて触手が四肢のように変化していく。次第に人型に近づいていく様子が伺えます。
 その一方で、サム・ニールの方もまた狂気に侵されていく。
 後半はやたらと人が死にます。別にクリーチャーの秘密を嗅ぎつけなくても殺される。不倫相手を殺してしまうのは理解できますが、その母親の自殺まで描きますか。妻の友人も特に理由無く殺されるし。
 何気に血まみれな映画ですな。

 そしてクライマックスは、夫が妻とクリーチャーの不貞現場を目撃する場面。
 日本の成人向けアニメやゲームやコミックスに触手系というジャンルがありますが、ちゃんと洋画にもあるじゃないですか。それも八〇年代から。
 しかしよりによって、ヌラヌラのクリーチャーと絡む女優がイザベル・アジャーニか。これはなかなかショッキングですわ。
 そうやって妻はクリーチャーを育成し、クリーチャーは人型に近づいていく。
 最後にどんな姿形になるのか……(予想は付きますよね)。

 ところで本作でのイザベル・アジャーニは一人二役を演じております。
 実は息子の通う小学校の担任教師役もイザベル。サム・ニールは妻と瓜二つな担任教師に驚くのですが、特に説明はありません。ただの他人の空似であるらしい。
 悪に染まった妻に対して、この先生は純真そのもの。
 まぁ、その、物語の展開上、何がしたいのか判らないではありませぬが、エラい御都合主義な設定と云わざるを得ません。

 結局、サムもイザベルも破局を迎えるのですが、クリーチャーの最終形態から察するに、やはり妻は夫を愛していたと云うことなんでしょうかね。なんか回りくどい愛情表現ですなあ。
 最後に、息子を預かった担任教師の元に、生き残ったクリーチャーが現れて……。

 色々なところで抽象的で、説明不足で、破綻しているような映画ですが、イザベルの美貌と演技、カルロ・ランバルディの職人技的造形美が冴え渡る印象的な作品と申せましょう。



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