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2011年12月11日日曜日

タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密 (3D)

(THE ADVENTURES OF TINTIN : THE SECRET OF THE UNICORN)

 ベルギーのアーティスト、エルジェ原作によるコミックス『タンタンの冒険旅行』のアニメ化ですね。スティーヴン・スピルバーグが映画化を熱望していながら幾星霜。遂に実現しましたか。しかも3DCGで。
 確かスピルバーグはフィルムで映画を撮影することに拘っていたお方の筈でしたが──『マイノリティ・リポート』(2002年)のときにそのような旨の発言をしておられたと記憶しております──、本作はアニメだからか完全デジタル撮影で行われたとか。
 アニメ初監督作品で3DCG。色々な意味で記念的な作品になりました。

 是非とも本作は日本語吹替版での鑑賞をお奨めします。
 3Dでの鑑賞だと字幕が読みづらいと云うのもありますが……。
 理由は主人公の名前の発音デス。“Tintin”と表記されても、ちゃんと仏語読みすれば「タンタン」なのに、劇中では何回聞いても「てぃんてぃん」とか「ちんちん」とか云っているようにしか聞こえません。興醒めもいいところデス。
 これはかの名探偵「エルキュール・ポワロ」を「ハーキュリー・ポイロット」と呼ぶのと同じではないデスか。
 まったく、これだから米国人というヤツは!(熊倉一雄の声で)
 スピルバーグと云えども、なんでもかんでも英語発音にしてしまうハリウッドの風潮には抗えないのでしょうかねえ。

 しかし発音を別にすれば、本作に問題はまったくありません。
 痛快冒険活劇とは正にこれでしょう。誠にスピルバーグらしい作品ですね。前作『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008年)から四年近く空いてしまいましたが、スピルバーグ印のアドベンチャー大作をまた観ることが出来て大変、嬉しいです。
 どちらかと云うと本作の方が〈インディ・ジョーンズ〉シリーズに近いと云うか、『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』のテイストに近い感じがしますね(物語の舞台が北アフリカ某国に及んだりするところも含めて)。
 でも実は八〇年代の頃から『レイダース』は『タンタンの冒険旅行』に似ていると指摘されていたのだそうな。
 音楽もジョン・ウィリアムズですから、ますます似てるし。
 共通しているのは脚本の密度が高い点もそうです。観終わって上映時間が二時間を越えていないというのが信じられないくらい内容が盛り沢山で、無駄が無いです。やはり脚本の出来がすべてですねえ。
 スピルバーグも念願の企画なだけに、気合い入れまくりだったのでしょうか。

 本作は数ある原作コミックスの中でも、表題作である『なぞのユニコーン号』に加えて、『レッド・ラッカムの宝』と『金のはさみのカニ』の三作をブレンドして脚本化したそうですが、実に見事な出来映えと申せましょう。
 この脚本は、イギリスTV界出身スティーヴン・モファットの初稿を、エドガー・ライトとジョー・コーニッシュがリライトしながら完成させたそうな。あまり知らない人達ですが、エドガー・ライトだけは存じておりますぞ。『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)や『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(2010年)の監督兼脚本家ですから。

 私は原作コミックスを読んだこと無かったのですが、タンタンの職業はレポーターなのか。てっきり肩書きは「少年探偵」なのだろうと思い込んでおりました。あまり変わらないか。
 事件と聞くや、愛犬スノーウィと共に首を突っ込み、謎を解くというのが基本パターンなのか。
 映画のOPがなかなかグラフィカルで、キャラの紹介にもなっていて楽しいです。

 本編の方は、タンタンがノミの市で偶然見つけた帆船の模型に隠されていた秘密から事件に巻き込まれていくという筋立て。パリ市街の背景が見事です。
 CGアニメですが、写実的な作風なのでタンタンの顔立ちも、シンプルな原作の画から映画用にアップデートされております。この匙加減が絶妙で、原作のイメージを壊さないようにしながら写実的で、少しだけアニメ風。
 冒頭のノミの市で、似顔絵を描いてもらいながら顔を見せずに会話だけさせ、似顔絵が出来上がると共に振り向いてアップになるという演出が巧いデス。似顔絵の方が原作のキャラになっているのが笑えます。

 タンタン役はジェイミー・ベルだそうですが、モーション・キャプチャーによる撮影で俳優をデジタル変換するので、役者本人の面影はまるでありませんねえ。
 本作に登場する人物は、原作の画に似せることに労力が傾注されています。ゼメキスの『ベオウルフ/呪われし勇者』とは演出方針が違うわけですね。
 したがいましてハドック船長も、演じているのはアンディ・サーキスですが、面影無し。
 敵役であるサッカリンも、ダニエル・クレイグが演じていますが、キャラ的にはむしろゲイリー・オールドマンに似ているような印象さえあります。
 マヌケな双子の刑事はサイモン・ペッグとニック・フロストか。全然、判らんわ。体型も違うし。

 アニメでありながら実写風。さりとて実写では不可能なカメラワークを平然と見せてくれるという、なかなか面白い作風です。さすがはスピルバーグというべきか。
 道具に振り回されず、ちゃんと道具を使いこなしている感じで、安心して観ていられます。
 物語が面白いので、特に3Dにする必要があるのか疑問ではありますが。
 しかし一方ではアニメならではの表現も駆使しており、実写とアニメの中間のような不思議なテイストを醸し出しております。
 特に砂漠を彷徨いながら朦朧としたハドック船長が幻視するユニコーン号の幻のシーンは圧巻です。砂丘と波頭が重なりながら帆船が砂漠を越えて現れる場面はゾクゾクしました。

 船長の回想によるドラマ部分では、御先祖様であるフランシス・アドック卿も同じ顔であるというのが笑えます(御先祖だし)。同じ役者の一人二役と云う演出ですが(こっちもアンディ・サーキスだし)、アドック卿の部下も、ムーランサール城で登場する執事と同じ顔であるというのが、さりげない伏線ですね。
 ハドック船長がアドック卿の子孫であるのと同様、サッカリンも海賊レッド・ラッカムの子孫だったという因縁。中盤の帆船対決の構図が、そのままクライマックスの港湾での対決と重なるという図式も見事です。
 「因縁の対決」であることをアクションだけで判らせる演出が巧い。

 物語自体は「隠された財宝を巡る争奪戦」という黄金のパターン。
 財宝のありかを示す暗号は、三つの帆船の模型に隠されており(タンタンが入手したのはその一隻)、アイテムを三つ揃えないと謎は解けない。アイテムを奪い奪われながら敵味方が、最後の模型の所在をめぐって競争するというという、冒険活劇としては王道中の王道なのもいいですね。
 特に最後の模型は、おいそれと手出し出来ない場所に陳列され、厳重なガラスケースをどうやって破壊するかという計略が意表を突いてます。
 泥棒映画としても、よく出来ています。特に雰囲気が六〇年代の「古き良き泥棒映画」を彷彿とさせる演出なのが、ニクい。こういうの大好きなので。

 アクションに次ぐアクションで息をもつかせず、これで終わりかと思わせて、更に一捻りも二捻りもある。久しぶりに「活劇映画を堪能」いたしました。
 原作コミックスは他にも何巻もあって、続編の製作も準備中であるとか(ヒットすれば三部作なんでしょうねえ)。
 続編は共同製作者であったピーター・ジャクソンが監督するとも云われており、今から楽しみです。でもその前にピージャクはちゃんと『ホビットの冒険』を完成させてよね。


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