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2011年10月8日土曜日

猿の惑星/創世記(ジェネシス)

(Rise of the Planet of the Apes)

 一世を風靡した〈猿の惑星〉シリーズはSF者にとっては忘れがたい。昔から大好きでした。第一作のラストシーンは実に衝撃的でした。
 あまりにも衝撃的だったので、色々なところでパロディのネタにされておりますな。
 今でもそれなりに衝撃的ではありますが、スレたSF者になってしまった今となっては、突っ込みたくなる部分もあったりして(猿が英語を喋った時点で地球だと気付けよ、テイラー船長!)。

 まぁ、色々ありますが、第三作『新 猿の惑星』以降はタイム・パラドックスも絡んだ時間テーマのSFにもなったりして、興味深かったデス。五部作もかけて時間の円環構造を描こうという野心的な試み……だったのか。特に気になるのは、最終作『最後の猿の惑星』。果たして時間はループするのか、或いは異なる未来が選択できたのか。
 TV放映時、「ゴールデン洋画劇場」の解説者である高島忠夫は、「こうして時間はグルグル回り続けるんですねえ」と断定して語っていたのを思い出しますが、DVDで見返すと異なる解釈もあり得るのでは。
 シーザー大王の死後、時間はどのように流れていくのか……。

 と、云うところで、このリメイク版『猿の惑星』でありますが。
 えと。途中になんかもう一本、ティム・バートン監督によるスカタンなリメイク作品があったが、あれは忘れてしまいたい(汗)。
 本作『猿の惑星/創世記』は、オリジナル版で云うところの第四作『猿の惑星/征服』を主に扱ってリメイクしているワケで、非常にリアルにアップデートされていると申せましょう。
 しかもかなり感動的で泣ける場面もある。
 もう旧シリーズとは一線を画して、改めて独立した作品として制作されているので、タイム・パラドックスなんて設定はありません。これはこれで新たなシリーズの第一作として成立する物語ですね。
 監督のルパート・ワイアットはこれが監督二作目になるという新人監督ですが、見事な手腕ですわ。今後の活躍にも期待したいです。

 オリジナル版では「宇宙由来の病原菌が原因で、犬猫が絶滅した近未来、愛玩動物を失った人類は、類人猿を知性化させてペット兼労働資源としていた」とサラリと語られた部分をたっぷり時間を掛けて描こうという趣向。昔は気にせずスルーしていましたが、それって物凄い大事件だったのでは(笑)。
 今回、犬も猫も絶滅しませんし、詳細に描かれる知性化の過程が興味深い。
 アルツハイマー病の治療薬開発の過程で開発された新薬による副作用という設定。リアルですね。
 はて。つい最近も「賢くなる薬」を扱ったSF映画を観たぞ。『リミットレス』とネタがカブっていますが偶然か? 薬物による知能促進が、お手軽な『アルジャーノンに花束を』とも云える。

 この新薬を開発する若き研究者がジェームズ・フランコ。『127時間』でお馴染みですね。『スパイダーマン』の頃はトビー・マグワイアよりクレジットが後でしたが(そりゃ仕方ない)、今では先になるくらい出世しているのでは(これも贔屓目か)。
 アルツハイマーが進行していくジェームズの父親役が、ジョン・リスゴー。治療薬によって症状が緩和されたり、また病が進行したりという過程を印象的に演じています。さすが名優。
 ジェームズの恋人になる獣医役にフリーダ・ピント。『スラムドッグ$ミリオネア』のラティカちゃんですね。
 笑えるのは、猿たちを虐待する霊長類保護施設の飼育員の役がトム・フェルトン。もうトム・フェルトンと云うよりも、ドラコ・マルフォイに改名した方が通りが良いような気さえします。〈ハリポタ〉シリーズの影響は大きい。ここでもまたイジメっ子の役か。ちょっと可哀想ですねえ(笑)。

 ところで今回の主役、知性化されて人類に反旗を翻すチンパンジーのシーザーはCGなんですね。シーザーのみならず、登場する類人猿はすべてCG。もうリック・ベイカーによる名人芸な特殊メイクを観ることは出来ないのか。そこだけちょっと残念。
 しかしCGだとは云え、基になる人間の演技は必要。本作に於ける「シーザーの中の人」はアンディ・サーキス。もうすっかり俳優と云うより、パフォーマンス・キャプチャー専門役者になってしまった感がありますね。『キング・コング』に続いて、また「サルの中身」を演じるとは。
 今回はアンディを含めて数名のパフォーマーが猿を演じておりますが、類人猿演技の振付師(兼スタントマン)に元シルク・ドゥ・ソレイユの曲芸師の人が付けられている所為もあってか、どの猿も実に見事に演技してくれます。

 チンパンジーやゴリラに手話を覚えさせて意思疎通を図るというあたりが、マイケル・クライトン原作の『コンゴ』のようで、リアルです。そう云えばクライトンにも、動物の知性化を扱った『NEXT』という小説がありましたか。

 旧シリーズでは人種的な対立、黒人の公民権運動、ベトナム戦争や冷戦なんかが、それと判る形で取り入れられておりましたが、本作では種族の対立と云うよりも、認知症患者の在宅介護という描写が盛り込まれるので、より家庭的でエモーショナルな演出が目立ちます。
 特に朝食の席で、食器の使い方を忘れてしまったジョン・リスゴーの手にナイフを持たせてあげるシーザーの演技が素晴らしい。しかもその後でジェームズ・フランコと視線を交わしあって父親の病状を心配するというセリフ無しの場面が印象的です。
 これはもう家族の物語ですね。
 またアルツハイマーが進行して隣人とトラブルを起こした父親を救う為にやりすぎちゃって──チンパンジーの筋力は人間以上ですから──施設に収監されてしまうシーザーが哀しい。
 もう後半の逆境に打ちひしがれるシーザーの演技が泣かせてくれます。

 まぁ残念なのは、ドラマの経過としては、小猿だったシーザーが、大人に成長するまでなので、劇中では十年の歳月が流れるのですが、いまいち時間経過が感じられないという点ですかね。確かにシーザーは成長しますが、それ以外の登場人物はそのまんまなので。
 ドラマ部分とは別に、アルツハイマーの治療薬に遺伝子治療が応用されているというのが興味深いデス。最新の医学技術やねえ。
 遺伝子に直接作用させる為に、変異させたウィルスを使うのが伏線ですね。
 しかしそういう研究ならもっと厳重な管理態勢が必要であると思うのデスが、なんかあっさりバイオハザードしちゃうのは御愛敬か(笑)。

 シーザーは知性化させた類人猿を率いて蜂起するワケですが、ドラマ部分に時間をかけたので、戦闘自体は迫力あるものの、割とあっさりした印象でした。とりあえず人間の手を離れて森林地帯にコミュニティを築くというあたりでエンド。
 なんとなく問題山積のまま先送りにした感があって、これで猿たちの未来はホントに大丈夫なのかと心配になりましたが……。

 エンディングで唸ってしまいました。そうきたか。
 ジェームズ達一家の隣人の職業がパイロットであると云う設定が、最後の最後で効いてくるという仕掛けが巧いですね。
 かくして「サルの知性化を促進させつつ、人類には致命的なウィルス」は全世界にバラ撒かれたのであった……。なにやら『12モンキーズ』を思わせるようなエンディングでした。
 続編製作も検討されているそうなので、実に楽しみです。
 順当に行けば、次はリアルにアップデートされた『最後の猿の惑星』のような物語になってくれる筈ですが。さて。

●蛇足
 ところで今回、最初に研究施設で大暴れした末に射殺されてしまうシーザーの母親チンパンジーも登場しますが、特に名前で呼ばれることはありませんでした。
 でもシーザーのママなんだから、あれは「ジーラ」なのか。凶暴になったねえ(笑)。
 パパの「コーネリアス」の方は出番無しか。ちょっと残念。




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