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2011年9月4日日曜日

ジュリエットからの手紙

(Letters to Juliet)

 『ロミオとジュリエット』は文豪シェイクスピアの作──だと思っていたら、オリジナルがありましたか。元ネタはギリシャ神話にまで遡るとな。
 とは云えフィクションなのに、イタリアのヴェローナには観光名所「ジュリエットの家」があるそうな。知らんかった。ジュリエットの家というよりはキャピュレット家の屋敷と云うべきか。
 それは愛・地球博記念公園に「サツキとメイの家」があるようなものですか(なんか違うか)。

 この家の中庭にはジュリエット像が建ち、壁には恋の悩み相談がジュリエットへの手紙の形で貼り付けられている。貼っているのは全世界からやってくる恋に悩む観光客達である。
 この手紙は毎日、閉館時刻になると丁寧に集められ、差出人には後日、ジュリエットからの返事が届く。返事を書いているのはボランティアの女性達──通称「ジュリエットの秘書」──である。彼女たちは毎日、様々な恋の悩み相談に応えているそうな。
 映画には四人しか登場しませんが、実際にはもっと沢山のメンバーがいるそうで、片思い担当、失恋担当、不倫担当、喪失担当と分野を分けて返事を書いている。最近では各国語の手紙にも対応しているとか。
 ──と云う背景がなかなか興味深い。この映画のお陰で公開後、ジュリエットへの手紙の量は激増したとか。

 主演がアマンダ・サイフリッドだというので観たかったのデス。『赤ずきん』ちゃんですからね。『マンマ・ミーア!』や『ジェニファーズ・ボディ』にも出演しているし。ちょっと気に入っております。『CHLOE/クロエ』も観ておきたかった……。

 主人公アマンダはNY在住の記者の卵である。今のところは事実調査員なる「記者の下調べ」がお仕事。早く一本立ちして、書いた記事が掲載されるようになりたいと思いつつ、なかなか芽が出ない不遇の日々。
 婚約者がいて、NYにイタリア料理店を開店準備中。これがまた仕事の鬼というか、開店準備にてんてこ舞で恋人を省みる余裕がない。
 結婚して店を開くと新婚旅行に出る暇もなくなると云うので、婚前ではありますが新婚旅行を前倒し。行き先はもちろんイタリア。
 ところが新婚旅行というのは口実で、恋人がワインやチーズの納入業者達との交渉やら、ブドウ畑の視察やらに血道を上げるのでアマンダはさっぱり面白くない。
 仕事に熱中する恋人を放置してひとりで観光。たまたま見かけたのがジュリエットの家。
 手持ちぶさたでぽつねんとしているとジュリエットの秘書の一人を見かけ……。

 導入部の展開が面白いです。
 仕事一筋の恋人役がどこかで見たと思ったらガエル・ガルシア・ベルナルでした。『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2000年)で若き日のゲバラを演じた彼か。あの頃はラテン映画のキアヌ・リーブスと云われておりましたが、さらに男前になりましたな。
 恋人をホッタラカシにするけしからん野郎ではありますが、憎めない。全身全霊で開店準備に邁進する彼の姿は、見ていて応援したくなるほどです。

 たまたまジュリエットの家で五〇年間、壁の穴に埋もれていた手紙を見つける。内容は「愛するロレンツォと駆け落ちの約束をしたのに、その約束の場所に行かなかった」ことに対する後悔の念を綴ったものだった。
 心惹かれたアマンダは、自分にジュリエットの代返を書かせてもらう。
 直ちに反応があり、五〇年前の手紙の主が会いに来てくれた。
 記者魂にピンときたアマンダは、絶賛放置プレイ中であるのをいいことに、老婦人のロレンツォ探しに同行することに。
 実はロレンツォ・バルトリーニという名前はイタリアではありふれているのか。目的地トスカーナには七四人の同姓同名のロレンツォ・バルトリーニがいた。
 果たして目的のロレンツォとの再会は叶うのか。

 むしろ主役はこの老婦人。演じるはヴァネッサ・レッドグレイヴ。実に品のあるおばあちゃんですね。エレガントだ。
 ロレンツォ探しに懐疑的な老婦人の孫がクリストファー・イーガン。最初は否定的な言動が露骨にイヤな奴ぽいですが、最悪の事態を考え、祖母を失望させない為の配慮であると判る。
 もし相手が死んでいたら。もし相手が忘れていたら。
 祖母の受けるショックを考えれば、この旅は止めるべきである。まぁ、一理あるわな。孫の目から見れば、アマンダは虚しい希望を振りまいて祖母を記事のネタにしようと狙っているだけの記者に過ぎないのだから、当然でしょう。
 最初は険悪だった二人の仲が次第に接近してくるのだろうと云うことは簡単に予想できますし、事実そのように物語は転がっていくのですが……。

 ガルシアくんの方がイイ男のように思えるのだがなあ。これは贔屓目か?
 夢を追って一生懸命なのである。理解してやれよ。と云うか、夢を追いかける彼の背中に惚れたんじゃなかったのかよう。
 このあたり、この映画はやはり女性視点の映画なのかという感じがします。まぁ、主たる客層は女性だろう。
 これがもし男女逆転した物語だったなら──たとえば「自分の店を持つことに邁進する女性を男が振る」という展開だったなら──途端に「女性のキャリア的な成功に理解がない」とか云われてしまうのでは無かろうか。
 どうにもアマンダの選択にイマイチ共感できぬ。
 恋人とのすれ違いに耐えられないというのは判るが……。かと云って新しい男の方がベターな選択だと云えるのだろうか。
 男女の恋愛に正解は無いんだろうけどねえ。
 「愛するということは、互いに見つめあうことではなく、ともに同じ方向を見つめることなのだ」とは、フランスの作家サン・テグジュペリの言葉ですが。

 イタリア・トスカーナ地方でのロケがなかなか美しい。観光映画でもありますね。
 そして劇中で登場する何人ものロレンツォさん達が面白いデス。皆、味わい深そうな人たちばかり(笑)。
 イタリア男性は皆シブい。老いてからが本領のように見受けられる。
 自分が探しているロレンツォではないと判っても口説こうとする。「もし見つからなければ私とつきあってくれ」とおばあちゃんに交際を申し込むのも、一人や二人ではない。
 それだけヴァネッサ・レッドグレイヴは魅力的な老婦人であり、巧い配役ですわ。

 そして遂に探し当てた目当てのロレンツォが、フランコ・ネロ! おお、ジャンゴじゃないか。老いてますます渋いぞ。
 ブドウ畑の向こうから馬に乗って颯爽と現れる姿にシビレました(短いシーンですが)。
 クリント・イーストウッドも格好よく老けてますが、フランコ・ネロもいい感じにジジイ化してます。俺もこんな風に老けたい。
 実生活でもフランコ・ネロとヴァネッサ・レッドグレイヴは夫婦のようで、劇中での結婚式の様子が、実に印象的でした。やはり主役はこの熟年カップルですよねえ。

 美しい風景に素敵な恋(主に年長キャラの)が描かれた、なかなかイイ感じの作品でした。
 監督のゲイリー・ウィニックは、『シャーロットのおくりもの』と『ブライダル・ウォーズ』の監督でしたか。次回作にも期待したいです……と思ったら、これが遺作ですと。まだ若いのに(享年49歳)、惜しい方を……。ご冥福をお祈りいたします。


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