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2011年8月6日土曜日

モールス

(LET ME IN)

 スウェーデン映画『ぼくのエリ/二〇〇歳の少女』(2008年)のリメイクですね。オリジナル版の日本公開が昨年だったので、日本では割と公開の間隔が短い。しかしそれは良いことなのか。去年と同じ映画を今年もまた観るということなんですけど。
 このリメイク版も製作は2010年だそうで、日本公開が半年以上は遅れていますな。どうせなら同じ年に公開してくれた方が良かったような気もしますが。

 しかし良くできたリメイクではある。さすがハリウッド。
 監督は『クローバーフィールド』のマット・リーヴス。ちょっと特撮を過剰に入れたがる傾向が見られますが、それはハリウッド製だから仕方ないのかねえ(笑)。

 とは云え、実に巧く米国に舞台を移し替えたものだと感心してしまいます。オリジナル版の雰囲気が、ほぼそのまま移植されている。
 舞台となる街の風景、特に集合住宅と中庭の遊具を見事に似せてあるというのが嬉しい。
 ロケ地と舞台設定はニューメキシコ州だという。雪に閉ざされた小さな街なので、アラスカのどこかかとも思いましたがメキシコ国境とは。メキシコ近くでも高地の砂漠には雪も降るのだそうな。勉強になります。
 でも時代設定が1983年である意味はよく判りませんでした。確かにTVにはレーガン大統領が映っているし、ゲームセンターのゲーム機も古いのですが……。
 物語的には別に現代であろうと、いつだろうと構わないのでは。

 基本は少年と少女の純愛物語ですから。
 したがいまして、このリメイク版のキモは主役の二人の配役であると申せましょう。役名も少年がオスカーからオーウェン、少女がエリからアビーとそれぞれ変更されていますが、その方が米国的なんですかね。
 オーウェン役は『ザ・ロード』(2010年)で、ヴィゴ・モーテンセンの息子役だったコディ・スミット=マクフィーくん。美少年だよなあ。
 アビー役は『キック・アス』(2010年)でヒット・ガールを演じたクロエ・グレース・モリッツ。
 勿論、私はクロエたん目当てで観に行きましたが。

 ナニを云うにしても、この映画は主役の配役が勝利の鍵である。特にクロエたん。
 クロエたん主役でなければ、このリメイク版を観に行く気になったかどうか。
 そうか。じゃあ、お前はエル・ファニングがアビー役でも行かなかったと云いきれるのか。いやそれはちょっと(脂汗)。それはそれで……。
 アナソフィア・ロブでもか。いや、アナたん、もう一七歳ですから、設定年齢上、無理があるのでは。『テラビシアにかける橋』は2007年ですから、五年前にこの作品が映画化されていれば文句なしに主役だったのに……。
 最初に映画化が検討された2007年にすんなり製作されていればなあ。

 しかしオリジナル版では冗長だと感じられたところが、巧くカットされてテンポが良くなった上に、色々と特撮やらアクションやらが強化されて、全体的に底上げされた感じがします。
 でもこれも一長一短かな。

 巧いのは編集ですね。特に冒頭、いきなり雪の中をパトカーと救急車が疾走している緊迫した場面から始まったのには、感心しました。殺人事件の容疑者を搬送しているのであるが、犯人は強酸の液体を顔に浴びて虫の息。かろうじて救急病院に搬送して一命を取り留めるも、すぐに犯人自身が十階の病室から投身自殺するというショッキングな場面。
 ここから時間が巻き戻って、そもそもの発端へと繋がっていくという趣向。
 観客を惹きつけるいかにもハリウッド映画な展開。

 この連続殺人鬼にして吸血鬼少女の下僕であるオヤジが、リチャード・ジェンキンス。意外なところで渋いお方を。『バーン・アフター・リーデング』(2008年)とか『食べて、祈って、恋をして』(2010年)にも出演しておられましたが、私は『Shall We ダンス?』(2004年)の探偵役が好きです(アレもリメイク作品だったか)。

 オリジナル版では少年の家庭環境の描写が長くてモタついていましたが、今回はバッサリと省略。案の定、父親の出番が無い。離婚調停中であるという設定にして、遠く離れた場所にいるらしい。少年が相談しようにも、電話でしか話が出来ず、いまいち助けにならないという風に描かれ、ドラマの展開がすっきりしました。
 他にも、近所の住人の人間関係の説明描写もバッサリ。だからアパートの住人が素人探偵になってウロつくこともない。アビーのアパートに侵入し、返り討ちに遭うのは、事件を捜査中の刑事(イライアス・コティーズ)として描かれているので、展開が省略されても無理がない。

 全体的に色々と改善された箇所があって、ブラッシュアップされています。
 が……。まぁ、中にはヤリスギ感漂う場面も無きにしも非ず。

 別にクロエたんに吸血鬼メイクをしなくてもイイじゃなイカ。可愛い女の子に吸血鬼メイクというのも善し悪しだよなあ。
 CG合成が出来るからと云って、クロエたんのバイパイア能力をわざわざ画にして見せる必要も無いと思うのですがねえ。
 驚異的なジャンプ力で塀を跳び越えたり、軽々と木に登って見せたり、病院の十階まで壁をスルスルと登っていく──なんぞという場面は、別に無くてもいいのに。
 オリジナル版のように、ふと見ると十階の窓から女の子の顔が覗いている、という演出の方が趣があって良かったと思うのデスが……。

 映画としてパワーアップさせたいと云う気持ちは判りますが、そこまで派手にしなくてもと思う場面も幾つか。
 クロエたんに襲われて一命を取り留めた女性もまた吸血鬼化してしまい、病室で朝日を浴びて炎上する、という場面も火力倍増。看護婦さんまで巻き込んで大炎上したり。
 下僕オヤジが獲物を狩るのに失敗する場面で、盛大にカークラッシュさせて盛り上げたり。
 その下僕オヤジが自決する為に強酸の液体を頭から被った後の特殊メイクも、実におどろおどろしく、メイクさんが腕を振るっております。
 更に、クライマックスのスイミングプールでの大殺戮シーンも……。いや、あれでも押さえた方かな。

 一番の変更点は、吸血鬼少女が実は男の子だったという設定を、本当に少女にしたことか。
 オリジナル版では、原作通りにエリの股間を映す場面があって(スウェーデン映画だから出来たのか)、しかもそこに日本公開時にはボカシを入れた為に、意味不明な場面になってしまったワケですが、リメイク版ではやはりそこまであからさまな描写にすることは躊躇われたらしい。年齢制限かかっちゃいますしね。
 おかげでクロエたんは正真正銘の吸血鬼少女となり、物語は少年と少女の純愛物語になってしまいました。その方がいいか。

 吸血鬼少女と下僕オヤジの関係も、時間の流れによって引き裂かれるカップル的な描写になって、ロマンス要素が強調されましたね。
 でもやっぱり、結末は同じなので、自決してしまった下僕の代わりに、少年が新たな恋人となって逃避行を続けるというラストシーン。
 うーむ。それでいいのだろうか。数十年後にまた同じことが繰り返されるような気もするが。

 色々と変更したり、省略したりしながらも、総じて本筋はオリジナル版に驚くほど忠実であったりして、リメイクした甲斐はあったと申せましょう。
 DVDを両方揃えて、見比べてみるのも一つの楽しみ方ではありますね。




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