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2011年1月23日日曜日

完全なる報復

(LAW ABIDING CITIZEN)

 ジェラルド・バトラーの初プロデュース作品にして主演も務めたミステリー・サスペンスです。共演はジェイミー・フォックス。渋い組み合わせ。
 監督が『交渉人』とか『ミニミニ大作戦』(リメイク版ね)のF・ゲイリー・グレイ。『ゲット・ショーティ』とかは観ておりませんが、犯罪サスペンスが得意な人のようで。

 これは司法取引にまつわる犯罪サスペンス。ある男の壮絶な復讐譚。

 よく海外TVドラマで「司法取引」が出てきますが、実はこんなことやっているのは米国だけなのだそうな。へえ。
 欧米では一般的なのかと思っていましたが、アメリカだけか。勿論、日本でもやってない(似たようなことはやってるみたいですが)。

 そもそも検察が犯罪者と取引なんぞするというのが変なのでは。しかし複数犯による犯罪で主犯確定が難しい場合には有効であるとされる。
 うーむ。一理あるような……。
 しかし狡賢い犯罪者なら、偽証により共犯者を主犯に仕立て上げて、自分は取引から減刑を引き出す可能性もある。特に弁護士が有能で、検察がボンクラだとそうなりそうですな。

 この映画でもそう。
 幸せなジェラルド・バトラーの家庭は押し込み強盗によって粉砕されてしまう。奥さんも愛娘も目の前で殺され、自身も重傷を負い、手を下した張本人は司法取引で減刑。幾ら証言しようにも、検察が取引しているのではどうしようもない。
 これはもう司法制度に不審を抱くなという方が無理というものでしょう。

 特に最初のうちのジェイミー・フォックスの態度が傲慢。
 「有罪確定率96%」を誇るエリート検察官である。立証の難しい複数犯の犯行を苦労して手掛けるよりも、安易に司法取引に応じ、実際の刑が軽かろうと自分のスコアを落とさない方へと流れてしまう。そりゃもう、恨みを買って当然である。

 ああ、なんか日本にもありましたね。
 大阪地検特捜部のエースと呼ばれた検事が証拠を偽造するという言語道断な事件が。そういうヤツらはジェラルド・バトラーから天誅喰らうべきである(笑)。

 そして十年後。
 遂に男の恐るべき復讐劇が始まる……。
 冒頭でバトラーはちょっとした発明家であると説明される。手先も器用で、幾つかある特許のパテントで、それなりの資産家であるとも。
 頭脳明晰で、資産もある男に、明確な目標と十年という歳月を与えるとどうなるか。

 財産を何もかも処分して、用意周到に準備を重ね、あらゆる可能性を考慮し、関係者全員を血祭りに上げていく。実行犯だけではない。当時の裁判官、弁護士、検察、全員である。怖ろしい。
 しかも復讐なのであるから、楽に殺したりしないのである。いやもう、かなり猟奇な殺人になっている。エゲツない殺し方するんですよ。

 しかし最初の犯行からしばらくしてバトラーは逮捕されてしまう。警察も無能ではない。と云うか、実は逮捕されることも計画のうちだったと云うのが、なお怖ろしい。
 逮捕されても犯行が止まらないのである。

 刑務所に収監されているのに、連続殺人は止まらない。どうやっているのかジェイミー・フォックスにはさっぱり判らない。
 自分もその標的の一人なのである。いずれ順番が回ってくるのは火を見るより明らかである。そりゃ焦りますわな。
 犯人は判っているのに、手段と方法が判らないというハウダニット式のミステリですね。巧いな。

 舞台となるフィラデルフィアの街並みが印象的でもあります。特に司法関係の建物には由緒ある建築が多いらしく、ロケーションも興味深い。

 共演も渋い人ばかり(笑)。ブルース・マッギルに、ヴィオラ・デイヴィス。
 『スタトレ/DS9』のコルム・ニーミイもいましたね。オブライエン、ちょっと老けたかな。

 バトラーの復讐もかなり狂気が混じっておりますが、関係者以外に累が及ばぬように配慮されている。狙われた者は逃げられないが、関係者でないなら割と助かる──場合もある(汗)。最後の方は復讐も次第に加速して「この人たちも関係者なの?」と思われるくらい解釈が拡大していくのですが。

 実は十年の間に、ジェイミー・フォックスにも娘が誕生しており、自分の娘を可愛がる場面がありました。
 バトラーが復讐を準備していく過程で、これに気付かないワケがない。私はもう、いつフォックスの家庭に累が及ぶのかハラハラしておりましたが、結局、彼の奥さんと娘は狙われることはない。
 このあたりに微かながら救われる思いがしました。
 そこまで外道には墜ちてなかったか。

 結局、ギリギリのところでトリックを見抜いたフォックスがバトラーを追い詰める。対峙する二人。
 堂々と落ち着き払い、司法取引を持ちかけるバトラーに対して、フォックスは決然たる態度で宣言する。

 「いや。俺はもう犯罪者と取引などしない!」
 「そうか。実はその言葉が聞きたかった」

 すべてはフォックスを改心させる為の行動だった。本当に?
 確かに、仕事ばかりで家庭を顧みることの少ないエリート検察官ではありましたからね。ラストで生き方を変えたフォックスの描写に救われます。

 でもバトラーの最期の表情が忘れられない。やはり復讐などと云う昏い目標を掲げる男は、最後には破滅するのである。
 まぁ、目的を達成した後での破滅なので、一種の救いのように思えなくもありませぬが……。

 最後の瞬間に、愛娘の写真を見ながらバトラーは何を思っていたのだろうか。

 ──パパ、ちょっとやり過ぎちゃったよ。

 とか考えていたのだろうか(泣)。




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